アメリカで「AIによるボイスクローン」を連邦法として規制しようという試みが、ついに採決の日を迎えた。

「Nurture Originals, Foster Art, and Keep Entertainment Safe(NO FAKES)Act」は、2026年6月18日(日本時間18日深夜)に米国上院司法委員会での投票が予定されている。Music Business Worldwideが報じた。

法案が成立すれば、声と容姿(visual likeness)に関する知的財産権がアメリカ連邦法レベルで初めて認められることになる。


何が起きたか

2023年、「Heart on My Sleeve」というAI生成楽曲がSpotifyとYouTubeで25万再生を超えた。DrakeとThe Weekndの声を無断でクローンしたこのトラックは、のちに両プラットフォームから削除された——しかし削除の根拠は「著作権侵害」ではなかった。声そのものをコピーすることは、現行の著作権法では明確に違法ではないからだ。

NO FAKES Actはその空白を埋めようとしている。

法案は、すべての個人に対して「AIが生成した自分の声・外見の複製」を許可するか、または禁止するかを決める連邦レベルの権利を付与する。「デジタル・レプリカ」は、声または外見を高度にリアルに再現したコンピューター生成の表現として定義される。パロディ、コメンタリー、報道、承認済みサンプリングは対象外だ。

この権利は死後70年間存続し、相続・ライセンスが可能になる。

今回が法案の3回目の挑戦だ。2024年7月版は会期終了で廃案、2025年版は上院司法委員会で停滞した。今年5月20日に超党派グループが最新版を再提出し、今日の採決に至った。


なぜこれが重要か

AI音楽の文脈で最も直接的な問いは「アーティストの声を無断でクローンすることは違法か」だ。現行法では、その答えは「明確ではない」になる。

連邦著作権法は録音物を保護するが、「声そのもの」は保護の対象ではない。一方、肖像権(right of publicity)は州法で規定されており、州によってカバー範囲が大きく異なる。テネシー州のELVIS Actは2024年に施行され、声を保護された権利として扱う米国初の州法となったが、効力は州内に限られる。

NO FAKES Actはこれを全国レベルに引き上げる試みだ。既存の州法(ELVIS Actを含む)は温存しつつ、連邦法として全プラットフォームに適用される。

法案の「歯」は罰則規定にある。個人が無断複製した場合は1作品あたり5,000ドル、企業が作成・配布した場合は25,000ドル、そしてオンラインプラットフォームが対応を怠った場合は最大750,000ドルの罰則が課せられる。DMCA型の通知・削除システムが採用され、プラットフォームがセーフハーバーを維持するには「技術的・現実的に可能な限り速やかに」削除対応する必要がある。


論点と異なる見方

支持陣営の幅広さは注目に値する。ユニバーサル ミュージック グループ、ソニー・ミュージック、ワーナー ミュージック グループという三大レーベルが賛同する一方で、Spotify、Google、OpenAI、YouTubeといたテック企業も支持を表明している。RIAA、A2IM(独立系レーベル協会)、米国音楽家連盟(AFM)、ASCAP、BMIも名を連ねる。

「音楽業界が一致団結してテック企業とも同じ立場に立った」珍しい構図だ。

一方で、批判もある。最大の焦点は750,000ドルという上限だ。批評家たちは「実害に対してあまりにも不釣り合いに大きい」と指摘する。フリースピーチの団体からは、法案の文言が保護すべき表現まで飲み込む懸念も表明されていた(最新版ではこの点の修正が図られている)。

また、「Notice and Takedown(通知→削除)」モデルは、DMCAの運用で既に知られているように、大量の誤通知・乱用が起きやすい。AIが生成した楽曲かどうかの技術的な判定精度も問われることになる。


今後どう展開しそうか

委員会採決を通過しても、上院本会議→下院→大統領署名という道のりが残っている。過去二度の廃案経緯を見ると、楽観はできない。

ただし状況は変わりつつある。2024年以降、AIボイスクローンを利用した詐欺や無断楽曲生成の件数は増え続けており、立法の必要性に対する議会の意識は高まっている。超党派の賛同と、かつての「反AI陣営と親AI陣営」の対立を超えた産業横断的な支持は、過去の廃案時とは異なる環境だ。

法案が成立した場合、AI音楽ツールを開発・提供する企業は、ユーザーがアーティストの声をクローンするような利用をどこまで許容できるか、利用規約と技術的対策の双方を見直す必要が生じる可能性が高い。


作り手・聴き手への示唆

AI音楽を作っている人にとって、NO FAKES Actの成立は「声をクローンする」というジャンルへの直接的な影響をもたらす。「好きなアーティストの声で楽曲を作る」ことは、法的に許可を得ない限り——将来的に——連邦法違反になりうる。

ただし、既存の自分の声を学習させて歌わせる「ボイスモデル」は対象の線引きが難しく、実際の執行がどうなるかは法案の文言と裁判所の解釈次第になる。

もう一つ見落とされがちな点は、この法案が「声の所有権を明確にする」という方向に動くことで、「許可を得た上での声のライセンス」ビジネスモデルが生まれる可能性だ。すでにUniversal Music GroupはAI音楽ツール開発会社との楽曲・ボイスライセンス契約に動いており(2026-06-07の既報)、連邦法による権利の明確化はそうした商業的合意の基盤になりうる。

「AIで声を使えなくなる」という制約と「声を使う権利を得る仕組みが整う」という可能性は、表裏一体だ。


ソース