Sunoが動いた。8月7日、共同創設者兼CEOのMikey Shulmanが「How We're Building the Future of Music Responsibly」と題したブログ記事を公開。同日、リアルタイム著作権検知サービス「Musixmatch Sentinel」の初顧客としてSunoが採用されたことも発表された。二つのニュースは連動しており、Sunoが「透明性と責任」への姿勢を業界に向けて明示しようとしていることが読み取れる。

何が起きたか

Shulmanが公開した原則は4本柱だ。①「優れた音楽は人間が作る」②「技術はクリエイターに新しい可能性を開く」③「AIはオリジナリティを支援するものであり、模倣のためのものではない」④「音楽を作る人が増えることはエコシステムを強化する」。

いずれも抽象的に聞こえるが、具体的な措置が伴っている点が今回の発表のポイントだ。

Musixmatch Sentinel の導入。 Musixmatch が今年3月に立ち上げた「Sentinel」は、UGCプラットフォーム向けのリアルタイム著作権検知サービス。同社は世界最大規模の独自音楽データベースを持ち、著作権楽曲・歌詞の部分利用を「ミリ秒単位」で検知できるとしている。Sunoがその最初の顧客となり、アップロードされた音声ファイルと歌詞のスクリーニングに活用する。MusixmatchのRio Caraeff共同社長は「プラットフォームが生成されたものを理解し、著作権楽曲の利用を把握するためのインフラが求められている」とコメントした。

ダウンロードポリシーの刷新。 Sunoは近くダウンロードに関する新ポリシーを導入すると予告。ストリーミングプラットフォームへの大量配信を難しくする設計とする一方、「個人的・創造的・プロフェッショナルな用途には影響しない」としている。

音声ウォーターマーキングとフィンガープリント。 Sunoで生成された楽曲が他プラットフォームに共有された際に識別できるよう、ウォーターマーキングと音声フィンガープリント技術の導入を数週間内に開始すると告知した。これは8月2日から施行されたEU AI法のコンテンツラベリング要件にも対応する動きだ。

なぜこれが重要か

タイミングが全てを語る。7月31日にミュンヘン地裁でGEMAがSunoに勝訴し、8月2日にEU AI法のオーディオラベリング義務が発効した。その1週間後に、Sunoが「責任原則」を公開したのだ。

AI音楽プラットフォームへの法的・規制的圧力が高まる中、Sunoは「われわれは問題ではなく、解決策の一部だ」というメッセージを業界に送ろうとしている。Musixmatch Sentinel の採用は、そのメッセージに実体を持たせるための最初の可視的な行動と言える。

また、DeezerのデータではAIで生成されたトラックが全アップロードの50%以上を占めているとされる。大量配信の問題はDeezerだけでなく、Spotifyなどの主要DSPにとっても頭痛の種だ。Sunoが自らポリシーで制限を設けることは、プラットフォームとして「責任あるアクター」であることをDSPや業界団体に示すためでもある。

論点・異なる見方

Sunoに批判的なアーティストや権利団体が最も求めているのは「どんな音楽をトレーニングデータとして使ったか」という開示だ。今回の発表でShulmanは「アーティスト名をトレーニングメタデータに使わなかった」とは述べたが、具体的なトレーニングデータの内容については言及しなかった。

「AIは誰かの作品を模倣するためのものではない」という原則は聞こえがよい。しかしその原則を信じるかどうかと、「実際にどんなデータで学習したのか」を知りたいかどうかは別の問題だ。透明性のツールがアウトプット(生成された楽曲)の識別に向けられている一方で、インプット(学習データ)への透明性は依然として求められていない。

Musixmatch Sentinelの採用も、完全な解決策ではない。著作権検知は既存曲との照合だが、Sunoが学習した際の「学習時点の侵害」は検知の射程外だ。UMGとSonyがSunoと訴訟中である点も変わっていない。

Shulmanの言葉を別の角度から読むと、「AIは模倣ではなくオリジナリティを支援する」という主張は、訴訟での自社の立場を補強するための言説でもある。原則の公開は善意の表明であると同時に、法廷での主張とも整合する。

今後どう展開しそうか

ダウンロードポリシーの具体的な内容が発表されれば、AI音楽の流通に実際の制約が生まれる初めての自主規制ケースになりうる。その内容次第で、他のAI音楽プラットフォームへの「業界標準」としての圧力にもなる。

EU AI法は今年8月から施行されたが、まだ執行段階ではない。Sunoがウォーターマーキングを実装することは、規制当局の要求に先んじた動きとして評価される可能性がある。一方、日本や米国など他の地域における同様の規制への対応がどう展開するかも注目点だ。

訴訟が続くUMGとSony との関係において、今回のような「責任原則」の公開が交渉の文脈に影響を与えるかどうかは未知数だ。断言できることは少ない。

作り手・聴き手への示唆

AI音楽を使って作っている人にとって、プラットフォームが「責任ある方向」へ整備されることは悪いことではない。大量配信を制限するポリシーは、真剣に音楽を作っている人よりも、生成→大量アップロードをビジネスにしている人に影響が大きいはずだ。

ウォーターマーキングについては、「Sunoで作った」というラベルが楽曲に付く可能性を意味する。これを透明性として歓迎するか、スティグマとして感じるかは人によって分かれるだろう。

Sunoを使わず、AI音楽を遠巻きに見ている人にとっては、プラットフォーム側が自ら制約を設け始めたという事実はひとつのシグナルになる。何が「問題だ」と認識されているかが、こうした措置から読める。


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