Sunoが認めた「ユーザーの創作物で学習」——v6訴訟で浮かぶ「汚染された木」理論
SunoがAIモデルv6のトレーニングにユーザーが生成した楽曲を使用したと公式に認めた。UMGとソニーの第2次訴訟に対する声明での言及で、著作権侵害の「連鎖」を問う新たな法的論点が浮上している。
SunoがAI音楽モデルv6のトレーニングに、ユーザーがプラットフォーム上で生成した「創作物(creations)」を使用していたと公式に認めた。9月25日、Music Business Worldwideが報じた。
何が起きたか
きっかけはUniversal Music GroupとSony Music Entertainmentが9月18日に起こした第2次著作権訴訟だ。ボストン連邦地裁に提起されたこの訴状は、Sunoが60,202点のレコーディングを無許諾でコピーしたと主張するもの。
これに対してSunoは声明を発表し、v6が「パートナーからライセンスを受けたコンテンツ、コミュニティからのインタラクション(creationsやpreference signalsを含む)、チームの累積的な学習」をもとに訓練されたと述べた。
注目すべきはその表現だ。「creations(創作物)」という言葉を「preference signals(選好シグナル)」と並列で言及している。Sunoはこれまで、ユーザーデータはあくまで「どちらの出力を好むか」という選好データに限られると説明してきた。ユーザーが実際に生成した音声ファイル自体を学習に使っているとは明言していなかった。今回の声明は、その立場から一歩踏み込んだものと読める。
なぜこれが重要か
ラベルサイドが持ち出しているのは「poisoned tree(汚染された木)」理論だ。
ロジックはこうなる。旧モデルが著作権侵害のコーパスで学習していたとすれば、そのモデルが生成した楽曲も侵害の成果物だ。そしてv6がその成果物を学習データに用いているなら、v6は「汚染の連鎖」を引き継いでいる——というものだ。
訴状はそれを明示的に言語化している。「侵害したモデルの出力で『新たな』モデルを訓練しても、侵害はなくならない。それはマネーロンダリングだ」。
Sunoはv6の学習パートナーとしてWMG、BMG、Believeの名前を挙げており、ライセンス済みのデータも活用していると主張する。しかし訴訟が争っているのはまさに、そのライセンス済みデータとユーザー生成データの比率・関係性だ。
損害賠償の試算は大きい。著作権法が定める故意侵害の上限は1件あたり最大15万ドル。60,202件に適用すれば理論上の上限は約90億ドル(約1.35兆円)。YouTubeからの音源回避行為に関する別クレームを加えると、さらに約1.5億ドルが乗る。
論点・異なる見方
Sunoの反論は「これらの主張は法的にも事実的にも根本的に欠陥がある」というものだ。「Sunoはより多くの人が新しい音楽を作れるよう存在している」と強調する。
一方で、今回の声明が「ユーザーの創作物で学習した」と事実上認めた点について、ラベルサイドは「ようやく認めた」という姿勢をとるだろう。Sunoが9月9日にv6を発表した際、CPOのJack Brodyは「ゼロから学習した」と述べていたが、その言葉の意味が問われることになる。
「ユーザーデータ」の範囲についても解釈が揺れている。Sunoが当初「ユーザーデータとは選好データのこと」と説明していたのに対し、今回の声明では「creations」が明示的に登場した。これが音声ファイルそのものを指すのか、それともメタデータ的な意味合いなのか——法廷で争われることになるだろう。
WMGはすでにSunoと和解・ライセンス契約を締結しており、訴訟から離脱している。この構図が示すのは、ラベルによって「対立」か「協業」かのスタンスが分かれていることだ。
今後どう展開しそうか
第2次訴訟はF. Dennis Saylor IV判事に割り当てられた。すでに第1次訴訟も同判事が担当しており、同じ法廷で両訴訟が並行することになる。
「poisoned tree」理論が法的に認められるかどうかは、AI著作権訴訟全体の流れを大きく左右しうる。もしこの理論が認容されれば、既存モデルから生成された楽曲を再トレーニングに使うことそのものが侵害とみなされる可能性が出てくる。それはSunoだけでなく、AI音楽生成モデルを開発するすべての事業者にとって重要な前例となる。
作り手・聴き手への示唆
Sunoのユーザーは今、自分が生成した楽曲がモデルの再学習に使われていた可能性と向き合うことになる。利用規約上は同意していても、「自分の創作物が次世代モデルの原材料になる」という感覚は、クリエイターとしての感情を揺さぶりうる。
これはSuno固有の問題ではなく、AI全般が抱える「UGCによるフライホイール」モデルの倫理的な問いでもある。プラットフォームが生み出す出力が次の学習データになるとき、ユーザーはクリエイターなのか、それとも素材なのか。
ソース: Music Business Worldwide(2026年9月25日)