テイラー・スウィフト、声の商標登録をUK・EU・豪州に拡大——AI deepfake対策が国際化
テイラー・スウィフトのマネジメント会社が、4月の米国出願に続いてイギリス・EU・オーストラリアでも声と肖像の商標登録を申請。アーティストによる声の商標化という新たな法的戦略が、本格的に国境を越えはじめた。
テイラー・スウィフトのマネジメント会社 TAS Rights Management が、声と肖像の商標登録をイギリス、EU、オーストラリアの3地域に拡大したことが明らかになった。
何が起きたか
TAS Rights Management は2026年10月6日と7日、英国知的財産庁(UKIPO)および欧州連合知的財産庁(EUIPO)に対し、スウィフトが「Hey, it's Taylor Swift」と発声したサウンドマークと、ステージ上でピンクのギターを持つ写真の商標申請を提出した。オーストラリアでは10月12日、IP Australiaが同申請を受理("Accepted: In opposition period"の状態)。いずれも4月24日の米国出願日を優先日として主張している。
これらはいずれも、4月にスウィフトが米国特許商標庁(USPTO)に提出した3件の出願の延長だ。パリ条約のもと、最初の出願から6か月以内に同一商標を他加盟国で申請すれば、その優先日を援用できる。今回の国際出願はその期限内のアクションだった。
なぜこれが重要か
声を商標として登録するという手法は、法的にまだ前例がない。ニューヨークの知財弁護士Josh Gerbenは4月の米国出願時点で「セレブの発話音声を商標登録しようとする試みは、これまで法廷で試されたことのない新しい使い方だ」と指摘している。
商標法の「混同を招くほどの類似性」基準を援用できれば、完全なコピーだけでなく「それっぽい模倣」にも対抗できる可能性がある。つまり、テキストから生成したAI音声がスウィフトの商標に「混同を招く」と判断されれば、商標侵害として提訴できる理路が開く。
音楽業界では、ソニー・ミュージックが9月末時点でアーティストの声を模倣するAI生成トラックの削除を各プラットフォームに26万件以上要求したと報じられている。著作権による対応に加え、商標法という新たな武器を整備する動きが広がっている。
広がりと論点
スウィフト一人の問題ではない。ライオネル・リッチーは6月に4件の声の商標出願を行い、バックストリート・ボーイズも6月24日に「Hi, we're the Backstreet Boys」のサウンドマーク申請を提出した。EUでは、スウィフトのEUIPO出願の前日にイタリアのジョルジャ・メローニ首相が類似の申請を行ったとも報じられている。
一方で、懐疑的な見方もある。声の商標が実際に法廷で機能するかどうかはまだ不透明で、出願が受理されても登録・権利行使までのハードルは高い。AI生成音声が特定のフレーズを使わなければ、その商標は使えない。「声そのもの」を守る法的な盾として機能するかどうかは、今後の訴訟と判例の積み重ね次第だ。
今後の展開
UK・EU出願は現在「審査中」、オーストラリア出願は異議申立期間中にある。異議が申し立てられなければ、それぞれ登録に進む。米国の3件の出願は今なお審査中で、声の商標という概念を最初にテストする場はUSPTOになる可能性が高い。
AI deepfakeへの対応として、著作権・パブリシティ権・商標権をどう組み合わせるかは、音楽業界全体の課題になりつつある。声の商標という手段がその一角を担うのか、あるいは理論倒れに終わるのか——最初の判決が出るまで、実務的な評価は保留にしておくのが誠実だろう。