「AI音楽の反対は、人間の音楽じゃない」──Fred again..が語る、プロセスの不可侵性
英国プロデューサーのFred again..が、AIを試したことも試したいと思ったこともないと語った。著作権でも収益でもなく、「作るという行為そのもの」を守ろうとする姿勢が、AI音楽をめぐる議論に別の軸を引いた。
「AI音楽の反対は、人間の音楽かもしれない。でも私には、そうは思えない。AI音楽の反対は、音楽を作るという行為そのものだ」
イギリスのプロデューサー/DJであるFred again..(Fred Gibson)が9月25日、Instagram Stories 4枚にわたって、AIに関する自分の考えを公開した。元は約1年前にスマートフォンのメモアプリに書き留めたテキストで、「今こそ出すべきタイミングと感じた」とコメントを添えていた。
何が起きたか
Fred again..は、AI音楽を「試したいという気持ちが全くない(no pull whatsoever)」と述べた。その理由として挙げたのは、著作権でも収益分配でもなく、制作プロセスへの愛着だ。
彼は制作のプロセスを「自分の瞑想であり、日々のコンパス」と表現し、「プロセスという部分を機械に渡すことは、私がこの全体について愛していることと、本質的に相反する」と書いた。
投稿の中でもっとも引用されたのがこの一節だ。
「アイデアに向かってぎこちなく、ひたむきに転がっていくこと──それこそが、私たちが経験できる最も幸運なことだ。何時間も、何年もかけて、存在してほしいと思うものを作ろうとし続けること」
一方で、「AIが脅かすと心配していることはたくさんある。でも、これ(制作プロセス)はその一つには永遠にならない」とも述べた。彼はAIの脅威を否定しているのではなく、「作ること」だけは奪われないと言っている。
この発言は、DJ Magが報じた(2026年9月25日)。
なぜこれが重要か
今年AIへの姿勢を表明したアーティストの多くは、権利論か経済論を中心に据えてきた。SZAはトレーニングデータとしての使用を問題にし、Stingは労働経済への脅威を語った。それぞれ重要な議論だが、どちらも「音楽産業の問題」として語られる枠組みの中にある。
Fred again..の発言は、その軸とは別のところにある。彼が守ろうとしているのは権利ではなく、「作る喜びそのもの」だ。産業の話ではなく、制作者としての内面の話として語られている。
「作ること」の価値をAIへの反論として使うのは珍しくない。しかし「だからAI音楽は価値がない」とは言っていない点が、この発言を単純な否定から遠ざけている。彼が選ばないことと、他の誰かが選べないことは別だ。
論点・異なる見方
同じ「プロセス論」をとるアーティストにThomas Bangalterがいる。Daft Punkとして活動した彼も、AIによるプロンプト入力を「作ること」とは認めないという立場を表明している。Fred again..とBangalterはDJとして共演しているが、2人の意見が一致しているのは偶然ではないかもしれない。
一方、Empire of the SunのLuke Steeleは「AIはスマートなギターペダルだ」と述べており、ツールとして積極的に使う立場を示している。プロセスに意味を置く人と、プロセスの効率化を求める人の間には、価値観の根本的な違いがある。どちらが正しいではなく、何を「音楽を作ること」と定義するかの話だ。
なお、Fred again..は2025年、e.motionがリリースしたAI生成のダンストラック「Somebody Else」のボーカルが自分ではないかという噂の対象になった経緯がある。彼が公に何も語らないうちに、彼の声とされる音楽がAI経由で流通していたという状況は、今回の発言の背景として見ておく価値がある。
今後どう展開しそうか
Fred again..の発言が、何か制度的・法的な変化につながるとは考えにくい。ただ、AIをめぐる議論が「権利と対価」の軸だけで語られがちな今、「作ること自体に意味を置く」という軸が広がる余地はある。
Actual Life(彼の代表作シリーズ)は、路上で録った声や日常の音から組み立てられた作品群だ。そのスタンスから見ると、この発言は一貫している。「プロセスが作品の核にある」と言い続けてきたアーティストが、AIについて同じことを言った、という話として読める。
作り手・聴き手への示唆
「AI音楽を試す気がない」という発言は、使う人を否定していない。Fred again..自身そう言っている。彼が言いたいのは、「作ること自体が目的の人には、AIを使う理由がない」ということだ。
AI音楽を使うかどうかは、自分が何のために音楽を作るかという問いに直結する。それは技術の話ではなく、動機の話だ。Stingが「競争を感じない」と言ったのとは違う意味で、Fred again..は「脅かされていない」と言っている。両者は似ているようで、出発点が異なる。
ソース: Fred again.. speaks out against AI music: "The process is the magic" – DJ Mag(2026年9月25日)