配信プラットフォームのLANDRが9月22日、ケベック州のAI研究所Milaと共同開発してきたストリーミング詐欺検出システムの拡張を発表した。同社によると、このシステムの導入により、LANDRが配信する楽曲においてSpotifyが検出する不正ストリームの数が、2025年第1四半期から2026年第2四半期にかけて95%減少したという。

何が起きたか

LANDRが発表したのは、モントリオールに拠点を置く非営利AI研究機関Milaとの協業による機械学習モデルの拡張だ。Milaはディープラーニングの先駆者として知られ、2018年のチューリング賞を受賞したYoshua Bengioが設立した機関。

システムの核心は2つの機械学習モデル。ひとつはアカウントのプロファイルや行動データを評価し、もうひとつはリスニングパターンを解析して「本物のリスナー」の動きとかけ離れた不審な活動を検出する。

さらにLANDRは、配信プロセスの早い段階でリスクシグナルを捉えられるよう機能を拡張。具体的には、異常に高い楽曲リリース頻度、一夜にして大量の楽曲が追加されたカタログ、同一デバイスや振込先を共有するアカウント群、既存アーティストを模倣したメタデータなどをチェックする。

ACRCloudによる音源フィンガープリントとIrcam Amplifyの「AIで生成された音楽の検出器」も組み合わせており、不審と判断されたケースはLANDRの詐欺対策チームが人の目で確認してから対応が取られる。

なお、LANDRは95%という数値について「Milaシステム単独の成果ではなく、複数の詐欺防止施策を組み合わせた結果」と説明している。

なぜこれが重要か

フェイクストリームの問題はこれまでもたびたび報じられてきたが、配信プラットフォームが具体的な数値を出して「95%減」と宣言するのは珍しい。

背景にあるのは、Spotifyが2024年4月に導入した「ひとつのレーベル・ディストリビューターが配信する楽曲で"明らかな不正ストリーミング"が検出された場合、そのレーベル等に1トラックあたりの料金を課す」というポリシーだ。つまり詐欺ストリームへの対処は、ディストリビューターにとっても財務的なリスクと直結している。

LANDRのCEO Pascal Pilon氏はこう語る。「不正ストリームは単にプラットフォームを悪用しているだけではない。生計をかけて音楽を作っているミュージシャンと同じロイヤリティプールから金を奪っている」。この言葉は、フェイクストリームが業界全体の問題だという認識をわかりやすく示している。

また今回の発表は、IFPIが9月14日に公開した「ストリーミング・インテグリティ・イニシアティブ」(Verify・Vet・Act・Share・Measureの5つの柱を持つ業界基準)と足並みを揃える形になっており、LANDRは今後正式加盟を検討しているとされる。

論点・異なる見方

注目したいのは、検出から対応の間に「人間のレビュー」を挟んでいる点だ。LANDRのCTO Tommy Desilets氏は「突然バズった楽曲は、そのアーティストが本当に良い日を迎えているだけかもしれない。我々はAIが人の判断を補助することを望んでいて、判断そのものを置き換えることは望んでいない」と語る。

AIが自動的にアカウントを削除するのではなく、人間が最終判断する構造を残している。これはシステムの精度への自信とともに、誤検知による正当なアーティストへの損害を避けるための設計だ。

一方で、95%という数値の透明性については疑問も残る。フェイクストリームがどの程度存在し、その95%を除去したのか、あるいは全体の中で検出率が95%改善したのか。発表では「Spotifyがフラグを立てたストリーム数の変化」として語られているが、プラットフォーム側の検出アルゴリズムの変化も含まれている可能性がある。

今後どう展開しそうか

LANDRは高頻度でリリースするアカウントへの本人確認(ID verification)の導入も進めている。AI音楽ツールが誰でも大量の楽曲を生成できる環境を作った今、配信フローの入口側で人を確認するという流れは今後の業界標準になっていく可能性がある。

また、AI生成コンテンツの申告をDDEXメタデータとして各ストリーミングサービスに渡す仕組みも整備中だ。Spotifyが2025年9月から構築を始めたこの開示経路と連動することで、「どの楽曲がAIで作られたか」が流通段階から追跡できるようになる。

作り手・聴き手への示唆

AI音楽ツールで楽曲を量産できるようになった一方で、配信プラットフォームとディストリビューターは「それが本当に人が作りたかった音楽かどうか」を機械が精査する時代が始まっている。これは真剣に音楽を作っている人にとって望ましい変化かもしれないが、同時に配信のハードルが少しずつ上がっていることでもある。

フェイクストリームの問題と正直な作り手を守ることは同じ方向を向いているはずだ。ただそのシステムが誰にとって公平に機能するかは、引き続き注意して見ていく必要がある。


Source: Music Business Worldwide