AI音楽生成ツールのSunoが、ユーザーが生成した楽曲を本物のビニールレコードとしてプレス・発送するサービス「Suno Vinyl」を近く開始すると発表した。価格は約45ドル(プラス送料)。現在はウェイトリストの受付中で、最初のプレスランはウェイトリスト登録者向けに送られるという。

何が起きたか

Suno Vinylは、Sunoのライブラリから楽曲を選んでトラックリストを組み(最大46分)、カスタムスリーブのアートワークをアップロードするか既存のSunoアートワークを使うかを選択すると、12インチのレコードがプレスされて届くというサービスだ。素材はPETG(リサイクル可能なプラスチック)で、EcoRecordなどのメーカーが採用している環境負荷の低い素材を使用するとしている。

Sunoのサイトのコピーは「Some songs deserve more than a stream(ストリーム以上を受け取るに値する曲がある)」と謳っている。生成した楽曲を「自分の棚に飾るもの」「誰かへのギフト」として位置づけた訴求だ。

なぜこれが重要か

AIで作った音楽をビニールに焼く——そう書くと奇妙に聞こえるかもしれない。でも、この動きが意味することは小さくない。

これまでAI音楽は「生成して、ストリームして、消費される」というフローの中にあった。Sunoが差し込もうとしているのは、その後ろに「所有する」という体験だ。フィジカルメディアが持つ「モノとしての音楽」——棚に並べる、人に渡す、30年後にDiscogs で値がつくかもしれない——という体験を、AI生成音楽に接続しようとしている。

Sunoで生成した楽曲の著作権はユーザーに帰属する(有料プランの場合)という建前のもとでは、これは理論上は整合している。自分が権利を持つ楽曲をフィジカルにする、という行為として。

論点

もちろん懐疑的な見方もある。

まず音質の問題。「アナログの温かみ」を求めてビニールを選ぶオーディオファイルにとって、元がAI生成のデジタルオーディオであることへの違和感はあるだろう。PETGはビニール(PVC)より環境にやさしいが、音質特性は異なる。サービスページでは「ノベルティカットではなく、本物のプレス盤」と強調しているが、実際の音がどうかは最初のプレスランを待つしかない。

著作権上の論点もある。Suno自体がまだライセンスモデルへの移行途上にある(ウォーナーミュージックとの契約では今年後半に完全移行予定)。その過渡期において「AI生成楽曲のフィジカル流通」をどう整理するかは、レコード会社や権利団体からの視線が向かうポイントになりうる。

今後どう展開しそうか

Suno Vinylが成功するかどうかは、まず「自分の曲をレコードにしたい」というユーザーが実際にいるかどうかにかかっている。友人の誕生日に45分のAI生成ジョーク曲集をレコードにして贈る——というユースケースは笑えるが、実需はある。

もしこのサービスが受け入れられれば、他のAI音楽プラットフォームも追随する可能性はある。音楽の「モノ化」ビジネスは、ストリーミング収益が薄いAI音楽ツールにとって、収益源の多様化としても意味を持つ。

作り手・聴き手への示唆

ビニールが「音楽への愛着を形にするもの」だとすれば、AI生成楽曲にも愛着をかける人がいることは、否定する理由がない。プロセスが違っても、選んで、組んで、カバーアートを考えた時点で、それはその人の音楽体験だ。

「本物か否か」を問うより、「どんな体験として音楽と関わるか」という問いのほうが面白い。Suno Vinylは、その問いをビニール盤という形で差し出している。


Source: Suno Vinyl, Music Ally