愛知県江南市のスタートアップ・株式会社FYNAが、6月30日に日本語特化のAI音楽生成サービス「otojam(オトジャム)」のベータ版を公開した。SunoやUdioといった海外サービスが席巻するAI音楽市場に、日本語UIと日本語プロンプトを軸にした国産サービスが参入した形だ。

何が起きたか

otojamは、曲のイメージや歌詞を日本語で入力するだけでオリジナル楽曲を生成できるWebサービス。「明るく元気な応援ソング」「やさしい歌声とピアノを中心にした、少し切ない曲」といった自然な日本語テキストを入力することで、AIが楽曲を生成する。専門的なDAWソフトや機材は不要で、Webブラウザから会員登録だけで利用できる。

料金プランは3段階。無料の「おためし」では毎日50クレジットが付与され、1回の生成(10クレジット)で最大60秒の楽曲を作れる。月額980円の「いつもの」は月1,500クレジット・最大180秒、月額2,980円の「たっぷり」は月6,000クレジット・最大360秒に対応し、一度の生成で複数の候補曲も作成できる。

音楽生成モデルは無料プランから「ACE-Step 1.5」が利用可能で、有料プランではGoogleの「Lyria 3 Pro Preview」も選択できる。Lyria 3については、7月末にGoogle FlowとYouTubeが連携する形でも注目されていたモデルだ。

なぜこれが重要か

SunoやUdioを触ったことがある人なら、プロンプトを英語で書く必要があるか、少なくとも英語UIに慣れる手間があることを知っている。「Bright and energetic pop song with uplifting lyrics」と入力するより、「明るく元気な応援ソング」と書けるほうが、日本語ネイティブにとって思考のコストが低い。

これは小さいようで、実際には大きい。AI音楽生成が「聴き手が作り手になる」窓口になるためには、その入り口での摩擦を削ることが必要だ。言語の壁は、その最初のハードルのひとつだった。

開発背景としてFYNAが挙げているのは「音楽制作の経験がない人でも使える」というコンセプトで、教育機関への提供も将来的に検討しているという。子どもが学校行事の曲を自分で作るシナリオを想定しているのは、技術の話というより社会実装の話だ。

論点・異なる見方

国産AI音楽サービスの登場そのものは歓迎できる動きだが、いくつかの留保もある。

音楽生成モデルはACE-Step 1.5とLyria 3 Pro Previewの2種類が用意されているが、どちらも外部のモデルを採用している。「日本語特化」とは主にUI・UX(入力インターフェース)の話であり、音楽生成エンジン自体が日本語に最適化されているわけではない点は注意が必要だ。

また、生成した楽曲の権利処理については「利用規約に従ってユーザー自身の責任で」という記載にとどまっており、商用利用の可否や著作権の帰属については現時点では明確に公開されていない。ベータ版という性質上、今後の正式版で整理されることが期待される。

今後どう展開しそうか

国内AI音楽サービスはこれまでほとんど存在しなかった。日本語での音楽生成需要がどれほどあるかはまだ未知数だが、日本のカラオケ文化や「替え歌」文化を考えると、「自分の歌詞を曲にしたい」というニーズが潜在的に存在するのは確かだろう。

ベータ版を通じた使用状況のフィードバックをもとに機能改善を進めるとしており、正式版に向けての動向が注目される。教育機関向けの展開が具体化すれば、AI音楽との最初の接点が学校という場になる世代が生まれるかもしれない。

作り手・聴き手への示唆

Sunoを試したことがない、あるいはプロンプトを英語で書くのが面倒で試しきれなかったという人にとって、otojamは実際の入口になり得るサービスだ。

無料プランで1日に最大5回の生成(50クレジット÷10クレジット)を試せる。まず「自分の気分を言葉にしたら、どんな曲になるか」を体験することが、AI音楽との関係を自分なりに整理するきっかけになるかもしれない。

音楽を「聴くもの」として受け取るだけでなく、「言葉で呼び出せるもの」として扱い始めることが、これからの音楽リスナーの新しいモードになっていく。otojamが目指しているのも、おそらくその入口だ。