4億ドルを超える資金調達と54億ドルという評価額——6月3日のSuno発表で最も注目されたのはその数字だが、もう一つ、見落とされやすい言及があった。

Bloomberg取材に対し、Mikey Shulman CEO(兼共同創業者)はこう述べている。

「今後数ヶ月以内に、音楽業界との提携のもとで開発した最初の音楽モデルを公開します」

これは抽象的な約束ではない。Bloombergはさらに踏み込んで、その製品の中身を報じた。


何が起きたか

2025年11月、SunoはWarner Music Group(WMG)との著作権訴訟を和解で終結させ、ライセンス契約を締結した。その後、両社は製品開発を進めてきた。Bloombergが今回報じたのは、その輪郭だ。

概要として明らかになっているのは以下の通り。

  • 外観・操作感は現在のSunoとほぼ同じ
  • 新機能として「Warnerの楽曲を参照・取り込む(reference and incorporate)」ことができる

「参照・取り込む」が具体的に何を指すかはまだ明確でない。プロンプトでWarnerアーティストのスタイルを指定できるのか、実際の音源をサンプリングできるのか、それとも別の仕組みなのか——詳細は公開されていない。

Shulman氏は同インタビューで「資金があることで、ビジネスの動かし方が変わり、より大きな勝負に出られる」とも語っている。


なぜこれが重要か

Sunoがこれまで生成してきた音楽は、「何を参照して学習したかが不明確なモデルが出力するもの」だった。ユーザー体験の上では「出所不明」の音楽であり、それがRIAAとの訴訟の根っこにある問いでもある。

WMGとの製品が出ることで、初めて「どのアーティスト・どの楽曲に基づくか」が明示される可能性が生まれる。それは、AI音楽ツールとしての構造的な転換点になりうる。

比較として参考になるのは、Udioが準備中の「Starstruck」だ。UMGとWMGとの和解から生まれたこのプラットフォームは、Cover、Reimagine、Remix、Createの4モードでファンがアーティストの声やスタイルを使える設計になっている。著作権は権利者側が保持し、生成物は「ウォールドガーデン」の外に出られない。

SunoのWMG製品がどの程度この設計に近いかは不明だが、「ライセンスされた音楽を起点にAI生成する」という方向性は共通している。

Bond Capitalの担当者Daegwon Chae氏はBloombergに「Sunoは、音楽においてコーディングツールが非プログラマーに与えたような機会を開いている。能動的な参加・創造・エンゲージメントに基づく新しいエンターテインメント市場だ」と語った。Warnerの楽曲を参照できるということは、より多くのユーザーへの「入り口」になりうるという論理でもある。


論点・異なる見方

「Warnerとつくりながら、SonyとUMGと戦っている」という構造

現時点でSunoはWMGとの和解を成立させている一方、UMGおよびSony Musicとの訴訟は依然として係争中だ。両社は先月、音声指紋技術を使ってSunoのトレーニングデータ内に自社音源を61,000曲以上特定し、訴訟対象の大幅拡大を申請した。さらにSunoは訓練データ件数の非公開を裁判所に求めるなど、法廷での攻防が続いている。

つまりSunoは今、「WMGと一緒に製品をつくりながら、UMGとSonyに訴えられている」という二面性のなかにある。

これは「AI音楽 vs. 音楽業界」という単純な対立構図が、すでに崩れていることを示している。業界は一枚岩ではなく、それぞれのレーベルが独自の利害計算で動いている。

ライセンス製品が「Sunoらしさ」を変えるか

Sunoの現在の強みは自由度の高さだ。どんなジャンルでも、どんなスタイルでも、プロンプト一つで生成できる。

WMGの楽曲を取り込む製品が、Sunoの既存プロダクトとは別建てになるのか、本体に組み込まれるのかは公表されていない。「ライセンス済み」の制約と「自由生成」の自由が同じ画面上に混在した場合、ユーザーはどちらを求めるだろうか。

また、Warnerに参加するアーティストが限定的であれば、「使えるスタイル・使えないスタイル」の非対称性が生まれる。これはプラットフォームとしての設計問題でもある。


今後どう展開しそうか

Shulman氏の「今後数ヶ月以内」という言葉は、2026年後半と解釈するのが自然だ。採用計画(年内に70%増)が進めば、製品開発に相当のリソースが割かれる体制になる。

UdioのStarstruckが先に公開されれば、「ライセンスAI音楽」のユーザー反応を計る試金石になる。SunoはそれをベンチマークとしながらWMG製品の設計を磨くことができる立場にある。

一方でSunoがUMGとSonyとの訴訟を和解または勝訴で乗り越えた場合、さらに多くのレーベルと同様の製品を展開できる可能性も出てくる。「WMG製品」が先例になるかどうかも、注目点だ。


作り手・聴き手への示唆

「Warnerの楽曲を参照して音楽を作れる」とは、具体的にどんな体験になるのか。

もし「このアーティストのスタイルで」という指定がライセンスの枠内で合法的に行えるなら、それはAI音楽制作の一つの大きな扉が開くことを意味する。同時に、枠の外にあるもの——他のレーベル、インディーアーティスト、ライセンス外の音源——との非対称性が生まれる世界でもある。

今のところわかっているのは「近々公開される」という事実だけだ。それが何を可能にし、何を制限するのかは、製品が出てからはじめて評価できる。急いで結論を出す必要はないが、どんなものが出てくるかを注視しておく理由は十分にある。


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