ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)は8月5日(水)、全米音楽家連盟(AFM)がAIミュージックサービスUdioへの楽曲ライセンスをめぐって提起した訴訟の却下を、ニューヨーク連邦地裁(南部地区)に申し立てた。

何が起きたか

AFMは6月5日、UMGとワーナー・ミュージック・グループ(WMG)が、組合員の録音物をUdioおよびSuno(WMGのみ)にライセンス提供した際、補償も告知もしなかったとして訴えを起こした(関連記事:2026-07-29)。

UMGの却下申し立ては、契約解釈に基づく純法律論だ。AFMの主張は「SRLA(サウンド・レコーディング労働協約)第21条(a)項の『新たな利用』条項が適用される」というものだが、UMGはこう反論する。

「第21条(a)項は独自のレートを定めていない。新たな利用に適用される別のAFM協約からレートを引用するだけだ。AI利用に関するそうした協約は存在しない。存在しない合意に基づく支払いはゼロだ」

要するに、「払うべきレートが契約書に書かれていないのだから、払えない」という論理だ。

UMGは声明でも「責任あるAIライセンス契約を締結し、アーティストへの補償を確保してきた」とし、問題はAFMとの交渉テーブルで解決すべきだと主張している。

担当判事の反問

却下申し立てを論じた7月21日の事前協議で、エドガルド・ラモス判事はUMGの立場を率直に問いただした。

「あなた方はこの音楽をAI企業にライセンスして利益を得ている。なぜその音楽の作者に払わないのか」

ラモス判事は、かつてラップのサンプリングが「新たな利用」として確立し、業界交渉で料率が設定されていった経緯も引き合いに出し、「今回と何が違うのか」と問いかけた。

UMGの主任弁護士オリン・スナイダーは「ミュージシャンが何も得られないとは言っていない。ただしそれはAFMとの交渉で決めるべきことだ」と返した。

AFM側は、SRLAに仲裁手続きが含まれていないため「裁判に訴えるしか道がなかった」と説明。さらに、UdioのAI出力物がストリーミングや映画などの既存利用に転用された場合、既定のレートが適用されうるとも主張している。

なお、WMGも同様の却下申し立てを提出する許可を得ており、両社ともにUdioとはすでに和解・ライセンス契約を結んでいる。

もう一つの動き——独立アーティストの訴訟もNYに集約

同じ8月3日(月)、イリノイ州連邦地裁は独立アーティスト10名がUdioを相手取った著作権集団訴訟について、「イリノイ地裁での却下はしないが、ニューヨーク南部地区に移送する」と命じた。

この訴訟は2025年10月に提起されたもので、Udoが「訓練・事前学習・ファインチューニングの各段階で組織的に著作物を無断コピーした」と訴えている。原告の一人、シカゴ消防士でDavo Soundsとして活動するDavid Woulardは「大手レーベルの訴訟が人気アーティストの高価値カタログを守るものなら、私たちの訴訟はインディーズアーティストへの不均衡な被害に焦点を当てる」と述べている。

これによりUdioに関連する主要な著作権訴訟——大手レーベル3社、AFM、そして独立アーティスト集団——が同一の法廷に集まることになった。

ただし、3大メジャーのうちUMGとワーナーはすでにUdioと和解・ライセンス締結済み。ソニー・ミュージックのみが現在も係争中であり、先月は30,117曲を主張する新たな訴訟を提起している。

なぜこれが重要か

UMGの「レートが存在しないから支払えない」という論法は、一見矛盾しているように見える。UdioとのAIライセンス合意を「責任ある取引」と喧伝しながら、その取引から生まれる収益についてミュージシャン組合への分配は「契約上の根拠がない」と言い切るわけだ。

ラモス判事がサンプリングを引き合いに出したのは示唆深い。サンプリングも当初は「ルールが存在しない」状態から始まり、訴訟と業界交渉の繰り返しを経てレート体系が形成された。AI学習利用も同じ道をたどるとすれば、いま争われているのは「誰がその交渉をリードするか」という主導権だといえる。

今後どう展開しそうか

UMGとAFMは8月3日の週から新SRLAの交渉を進めており、AI補償に関する提案はすでに交換済みとされる。ラモス判事は訴訟を続ける一方で当事者間の交渉を促しており、却下申し立ての結論が出る前に交渉決着という可能性もゼロではない。

ただしAFMが訴訟に踏み切った背景には、仲裁手続きを持たない現行SRLAという構造的問題がある。新SRLAにAI利用条項が盛り込まれるかどうかが、今後の業界標準をどう形成するかの分岐点になりうる。

インディーズ側の集団訴訟がニューヨークに集約されたことで、大手レーベル・組合・独立アーティストという三者の主張が同一の法廷で審理される局面も想定される。それはUdioにとっても、これを傍観するほかのAI音楽プラットフォームにとっても、設定されうるルールの重みが増すことを意味する。


ソース: Music Business Worldwide(UMG motion to dismiss) / Music Business Worldwide(indie artists transfer)