カナダの著作権管理団体SOCAN(Society of Composers, Authors and Music Publishers of Canada)が2026年9月2日、AI音楽生成サービスのSunoを著作権侵害で提訴した。訴状はカナダ国内での配信を対象とし、SOCANのレパートリーに含まれる楽曲を無断で複製・配信していると訴えている。

何が起きたか

SOCANはSunoに対し、「同意も対価もなく、SOCANのレパートリーの楽曲と同一または酷似した出力を生成・配信している」と主張している。訴状には、Sunoのプラットフォーム上で公開されている150件の侵害疑いの出力例がサンプルとして列挙されている。

SOCANはあわせて専用の解説ページを公開し、具体的な音源の比較を掲載。Tom Cochraneの"Life is a Highway"、Avril Lavigneの"Sk8er Boi"、Alexisonfire の"Passing Out in America"などが例として挙げられている。

「証拠は明白で、目的もはっきりしている。AI企業は音楽クリエイターと出版社の権利を尊重しなければならない、ということを司法で確立することだ」と、SOCANの最高法務責任者であるAndrea Kokonis氏は述べている。

Sunoは提訴を受け、Music Allyに声明を送付した。「これらの主張は根拠がなく、争う意向だ。Sunoは誰かの名前や著作権に便乗するためではなく、オリジナルの音楽を作る手助けをするために存在している」としたうえで、アーティスト名や著作権楽曲タイトルへのプロンプトブロック機能や、サードパーティによる違法音源スクリーニングの実施を挙げた。

なぜこれが重要か

SOCANの提訴で注目されるのは、ドイツのGEMAが採用した戦略をほぼそのまま踏襲している点だ。GEMAは昨年、Sunoとの訴訟でミュンヘン地裁から勝訴判決を得ており(2026年7月31日判決)、その戦術——音源比較の公開、著作権侵害の具体的証拠の提示——をSOCANが参照したことは明白だ。

つまりこれは単体の訴訟ではなく、権利団体が国境を越えて共有している訴訟モデルの横展開だ。米国では複数のレーベルやアーティストが訴訟を起こし、GEMAがドイツで勝訴し、今度はカナダのSOCANが動いた。各地で個別に積み上がっている判例と戦術が、グローバルな包囲網として機能し始めている。

論点・異なる見方

Sunoの言い分は一貫している。同社はGEMAの訴訟でも、米国の訴訟でも「革新的な創作支援ツールであり、無断複製ではない」という立場を崩していない。フェアユース(公正使用)やトランスフォーマティブ・ユース(変形的利用)の法理を拠り所にしており、今回の訴訟でも同様のアプローチをとるとみられる。

ただし、カナダの著作権法(Copyright Act)は米国のフェアユース条項と異なり、フェアディーリング(fair dealing)という限定列挙型の例外規定を採用している。Sunoが米国訴訟で主張してきた論理がカナダ法にそのまま適用できるかどうかは不明で、法的な難易度が上がる可能性がある。

一方、SOCANが「創作者は同意を求められず、通知もされず、断る機会も与えられなかった」と強調している点は、技術論を超えた倫理的フレームを裁判官に提示する戦略だ。GEMAが同種のアプローチで勝訴した実績があるだけに、効果は侮れない。

今後どう展開しそうか

GEMAの判決後もSunoは事業を継続しており、訴訟ひとつで即座にサービス停止という展開にはならないとみていい。ただし判決が積み重なれば、ライセンス交渉のテーブルに強制的に着かせる圧力になりうる。Sunoが今年、BMGとライセンス契約を締結した(2026年8月13日)のも、こうした訴訟圧力と無関係ではないだろう。

カナダは著作権法の国際条約であるベルヌ条約の加盟国であり、判決の内容によっては他国の権利団体に対する先例効果も生まれうる。次に提訴に動く国はどこか、という観点でも注目すべき訴訟だ。

作り手・聴き手への示唆

AI音楽ツールを使っている作り手にとって、これらの訴訟が直接の脅威になるわけではない。問題は、訴訟の結果がプラットフォームの設計や制約に反映される点だ。Sunoがアーティスト名プロンプトのブロックを強化してきた経緯がそれを示している。

訴訟がライセンス契約という着地点を生むのか、それとも規制的な制限を強いる判決に向かうのか——その結果は、2〜3年後のAI音楽ツールの使い勝手を大きく左右する可能性がある。


ソース: Music Ally、SOCAN公式