この記事は、2026年7月12日に掲載した「GEMAとSunoの裁判を前に」の続報です。

何が起きたか

7月31日午前、ドイツ・ミュンヘン地裁(ランデスゲリヒト・ミュンヘンI)のElke Schwager裁判官が、GEMA対Sunoの著作権侵害訴訟でGEMAの訴えを認める判決を言い渡した。

MusikWocheの報道によれば、裁判所は「モデルへの楽曲保存は複製権を侵害し、ユーザーへの出力は公衆送信権を侵害する」と認定した。焦点となった楽曲は「Atemlos durch die Nacht」「Forever Young」「Mambo No. 5」など。GEMAは口頭弁論で、これらの作品がモデル内に恒久的に保存され、単純なプロンプトでほぼ同一の内容が再現されることを示していた。

裁判所はまた、Sunoがトレーニングデータを「ストリームリッピング」によって取得していた事実も確認した。Sunoは今後GEMAへの情報開示と損害賠償の支払いを求められる。ただし、判決は現時点では確定しておらず、Sunoは上訴できる。

なぜこれが重要か

Music Allyが伝えるとおり、これは「AI企業が音楽モデルの学習にライセンス取得を要する」と認定した欧州初の判決だ。

同じSchwager裁判官は2025年11月、GEMAがOpenAIを訴えた別訴訟でも著作権侵害を認定している。あの判決で争点となった「分析か記憶か」という問い——AIは学習データを「抽象的に分析している」のか、それとも著作物を「記憶して再現できる状態に置いている」のか——について、裁判所は一貫してGEMAの主張(記憶による再現)を支持してきた。今回のSuno判決はその路線を踏襲したと見られる。

欧州のデータ・テキストマイニング(TDM)例外規定は、米国のフェアユース条項より適用範囲が限定的だ。AI企業が米国訴訟で依拠してきた「変形的利用」論が、欧州の法廷では通用しにくいことが改めて示された。

論点・異なる見方

この判決の射程は広いようで、実は限定的でもある。

Music Allyが指摘するとおり、今回の判決は米国で進行中の訴訟(大手レーベルによるSuno・Udio提訴)に直接の影響を与えない。欧州と米国では著作権法の構造が異なるため、欧州での敗訴が即座に米国での不利に転じるわけではない。

また、判決は「一審」にとどまる。Sunoが上訴すれば、結論が覆る可能性もある。ただし、同裁判官が同じ論点でOpenAIに対しても下した判断と一致しており、欧州の法廷が一定の方向性を持って動いていることは否定しにくい。

AI音楽コミュニティからは「学習と記憶は本当に同じことなのか」という技術的な反論も依然として根強い。モデルが楽曲を「暗記」しているかどうかは、技術者のあいだでも解釈が分かれる問題だ。法的判断と技術的実態のギャップは、この先もくすぶり続けるだろう。

今後どう展開しそうか

欧州でAI音楽ツールを提供する企業にとって、この判決は重要なシグナルだ。判決が上訴審でも支持されれば、EU加盟国全体でAI学習に著作権ライセンスを要求する判例が積み重なっていく可能性がある。GEMAはすでにこの判決が「他のEU加盟国での手続きにも影響を与えうる」と位置づけている。

Sunoにとっては米国での訴訟、欧州での判決、ユーザーデータ流出問題(今月初め報道)が同時進行している状況だ。IPO観測が出たばかりのタイミングでのこの判決は、法務リスクの評価にも影を落とすだろう。

並行して、マサチューセッツ州連邦裁判所では米国のレーベル対Suno訴訟の略式判決が迫っているとされる。欧州と米国で同時期に判断が出るとすれば、AI音楽業界の法的地図は年内に大きく塗り替わる可能性がある。

作り手・聴き手への示唆

いまSunoで曲を作っている人にとって、この判決が今日明日のサービス停止を意味するわけではない。しかしプラットフォームが欧州での事業継続のためにライセンスコストを抱えるようになれば、サービスの価格や機能に変化が生じる可能性はある。

より根本的な意味では、この判決は「誰かが作った音楽を学習データとして使うことには、それ相応のコストが伴う」という原則を、欧州の司法が認めたことを示している。そのコストが誰にどう分配されるかは、まだ決まっていない。ライセンス料が作曲家・作詞家に正当に届く仕組みになるかどうか——判決が出ても、その問いへの答えは先にある。


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