グラミー賞受賞アーティストのSZAが、AIによる楽曲の無断学習と、それを支持するミュージシャンへの批判をInstagramで公表した。2026年6月20日のことだ。


何が起きたか

SZAはInstagramのストーリーズ(メインアカウント)に次のように書いた。

「Jus checked and music Ai has Trained off 238 of my songs. Im certain some unreleased.(確認したら、音楽AIが私の曲238曲を学習に使っていた。未発表曲も含まれていると確信している)」

そして続けた。

「If your a musician and you support this degenerate s**t? Your disgusting and there's NOTHING YOU COULD EVER SAY TO ME TO MAKE THIS OKAY. I hope u have the life u deserve.(ミュージシャンでありながらこのクソをサポートするなら?あなたは最低だ。どんな言い訳も通らない。相応の人生を歩んでほしい)」

さらに別のInstagramアカウント(非公式バーナーアカウントとされる)では、DJのDiploを名指しした。SZAは「DiploがSunoに出資しており、ブラック系の優秀なライターやプロデューサーの音楽を学習させようとしている」と主張。「私たちは米国人口の13%に過ぎないのに、世界の音楽に影響を与えてきた。AI音楽に白人のサウンドは聞こえてこない。立法でも医療でも、創造性でも、私たちには保護がない。最も盗みやすい存在だから」と訴えた。

Diploはこの主張に対して、報道時点では公式に反応していない。バーナーアカウントへの投稿については確認が難しく、HotNewHipHopをはじめ複数メディアが「alleged(とされる)」と留保をつけて報じている。


なぜこれが重要か

学習データの問題は、AI音楽をめぐる法的・倫理的議論の核心にある。Sunoに対してはすでにメジャーレーベル各社が提訴しており(訴訟は現在も進行中)、その文脈でSZAのような大物アーティストが「自分の楽曲が238曲学習されていた」と実数を出したことのインパクトは小さくない。

ただしより注目すべきは、SZAの怒りの向き先が「AI企業」だけでなく「AIを支持するミュージシャン」に向いている点だ。彼女は技術そのものと同じくらい、業界内での連帯の欠如に失望している。業界の外側から来た技術への批判ではなく、業界の内側から来た叫びとして読む必要がある。

さらにSZAは以前から、AIデータセンターがブラック・ブラウンコミュニティに与える環境被害を批判している。電力消費と水資源の問題が特定の地域に集中しているという指摘だ。同様の懸念はTyler, The Creatorもジョージア州のデータセンター建設に関して表明している。AIと人種的公正の問題は、音楽の著作権に留まらない広がりを持ちつつある。


論点・異なる見方

SZAの批判には、分けて考えるべきいくつかの論点が混在している。

学習データの問題はもっとも実証的だ。Sunoが著作権保護された楽曲を無断で学習に使用してきた疑いは、訴訟でも中心的な争点となっている。238という数字はSZA自身の確認によるものだが、どのプラットフォームがどの曲を使ったかの透明性はいまも乏しい。

Diploとの関係については、Diploが公式にSunoへの出資を認めた事実は現時点では確認できていない。SZAの主張はバーナーアカウントのものとされており、証拠の検証が難しい。ここは「とされている」という水準で扱う必要がある。

「白人のAIサウンドは聞こえない」という指摘は、AIが特定の文化的資産を偏って学習し再現しているという問いを含んでいる。これはジャンルや文化的文脈の問題であり、学習データの多様性と偏りに関する批評として受け取れる。単純化せず、議論の入り口として捉えるべき論点だ。


今後どう展開しそうか

Diploが沈黙を続けるか、何らかの反論を出すかによって、この議論は大きく展開が変わる。もし事実であれば、AI企業への出資をめぐるアーティストとの軋轢は、技術会社側と音楽業界側の対立をさらに鮮明にする。

Sunoをめぐる訴訟では学習データの開示がまだ十分になされていない。今回のようなアーティスト自身による「何曲使われているか」の告発が増えると、裁判所や立法の場での圧力が増す可能性がある。

米国では「No Fakes Act」が今月上院で採決を迎えたばかりだ(2026-06-18)。アーティストのデジタル肖像・声・楽曲に対する保護の法整備は動き出してはいるが、SZAが指摘するように「保護が追いついていない」状況は続いている。


作り手・聴き手への示唆

SZAの怒りを「感情的な反AI発言」と片付けるのは簡単だ。でもその中に含まれている問い——誰の音楽が、誰の許可なく、誰の利益のために使われているのか——は、AI音楽に関わるすべての人に向けられた問いでもある。

AIで音楽を作ることと、その学習データがどこから来たかを問うことは、矛盾しない。むしろその問いを持ち続けることが、AI音楽というシーンを文化的に正当なものにしていく前提条件だとRezは考える。


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