「3,000人のバーチャルシンガー」という数字を聞いて、何を想像するだろうか。

6月12日、ワーナー・ミュージック・チャイナが中国のバーチャルアーティスト会社Dream Makerとの包括的な戦略提携を発表した。Dream Makerはその3,000人超のバーチャルシンガーを擁し、全プラットフォーム合計で100億回以上の動画再生を誇る——これはVTuber文化がひとつの「産業」として成熟した中国ならではのスケールだ。


何が起きたのか

発表によると、ワーナー・ミュージック・チャイナはDream Makerに対して、音楽プランニング、A&Rプロダクション、著作権流通、統合マーケティング、タレントマネジメント、ライブパフォーマンスにわたるサポートを提供する。Dream Makerのラインナップを率いるのは「KONG」「DL. Ji」「DL. L9」らのバーチャルアーティストで、なかでもKONGはDouyin(中国版TikTok)のバーチャルカテゴリにおいて、単一ライブストリームの視聴者数と収益の両方で首位に立つ。

重要なのは、Dream Makerのバーチャルアーティストが「純粋なAI生成」ではない点だ。すべてのバーチャルアーティストの背後には実際の人間のパフォーマーが1対1で存在し、リアルタイムモーションキャプチャー技術によってバーチャルアバターに命が吹き込まれる。ライブストリーミング、ライブシンギング、IPインタラクションを通じて、「新進シンガーや独立系ソングライターが才能を発揮するためのプラットフォーム」とDream Makerは説明している。


Wu Ai-Hua:バイラルを生んだハイブリッドな試み

この提携は、ワーナー・ミュージック・チャイナにとって突然の方針転換ではない。今年初頭、同社はAI仮想シンガー「Wu Ai-Hua(呉愛花)」のデビューで大きな注目を集めていた。1月にリリースされたデビューMVはプラットフォーム合計で1,000万回以上の再生を記録した。

Wu Ai-Huaのコンセプトは独特だ。ビジュアルは1960〜80年代の香港武侠映画(wuxia cinema)を参照し、粒子の粗いフィルムテクスチャーと劇的なライティングを意図的に採用している。一方で音楽は真逆の方向を向く——英語ボーカルの下にEDMとヒップホップが流れ、中国伝統楽器の緊張感がそこに絡む。ビジュアル制作には中国の動画生成AIモデル「Kling AI」(快手/Kuaishouが開発)が使われていることが、公式クレジットから確認できる。

声はどうか。Bandwagon Asiaの報道によれば、ボーカルは「人間のプロデューサーが手作業でポストプロセス」したものであり、完全自動のAI音楽生成ではないとされる。クリエイターの呉志奇(Wu Zhiqi)はChina Dailyのインタビューで英語ボーカルを選んだ理由についてこう語っている。

「中国語で歌えば、すべてがシームレスになりすぎる——むしろ予測可能になる。英語ボーカルは武侠ビジュアルへの感覚的な対位声部を生む。古代のイメージとモダンでグローバルなサウンドがぶつかり合う美的摩擦——それがキャラクターにより複雑で多層的なテクスチャーを与えている。」

そして彼はこうも言っている。「AIは魔法じゃない。難しいんだ。判断力、センス、知識がなければ、何も機能しない。」


なぜこれが重要か

今回の提携が示しているのは、大手レーベルが仮想アーティストを「一点物の実験」から「システムとしてのビジネス」として扱い始めたということだ。

ワーナーは2021年にもパンアジアダンスレーベル「Whet Records」が中国のバーチャルアイドル「Ha Jiang」と契約を結んでいる——アジアのメジャーレーベルとバーチャルアーティストの最初の契約として当時注目された。ソニー・ミュージックエンタテインメント(日本)は「歴史上最大のバーチャルタレント育成・マネジメントプロジェクト」と自ら称するVEE Virtual Entertainmentを運営し、PRISM Projectという複数世代のVTuberエージェンシーも手がけてきた。

Dream Maker提携が異なるのは、その規模だ。個別アーティストとの契約から、3,000人規模の「仮想アーティスト軍団」を持つ事務所との組織的タイアップへ——これは量的な変化であり、ワーナーがバーチャルアーティストを本格的なビジネスラインとして位置づけたことを意味する。


論点:これはAI音楽なのか

Dream Makerのバーチャルアーティストはモーションキャプチャーを使った人間のパフォーマーであり、音楽業界がいま直面している「AIが生成した音楽」の問題とは性質が異なる。VTuber文化の延長線上にある存在だ。

一方でWu Ai-HuaはKling AIのビジュアル生成を使い、ボーカルをAI的手法でポストプロセスしたハイブリッドであり、純粋なバーチャルアーティストとも純粋なAI音楽とも違う地点に立っている。「人間のいないAI音楽」と「人間が演じるバーチャルキャラクター」の間に、こうした灰色地帯が広がりつつある。

コンセプトとしての「バーチャルアーティスト」と、生成AIとしての「AI音楽」は、いま急速に接近している。両者の境界線をどう引くかは、著作権上の扱いからファンの倫理観まで、多くの問いと直結している。


今後どう展開しそうか

中国のバーチャルアーティスト市場はDouyin(TikTok)のライブストリーミングエコノミーと密接に結びついており、西洋のストリーミング収益モデルとは異なる構造で成立している。KONGが「単一ライブストリームの収益」でNo.1というのは、視聴者が直接チップや課金でパフォーマーを応援する中国式ライブコマース経済の話だ。

ワーナーがこの市場に本格参入したことで、グローバルな流通・マーケティングのリソースが中国のバーチャルアーティストに接続される。Wu Ai-Huaが「国際流通、多言語音楽制作、越境コラボ」を目指すと発表されているのも、この文脈に沿っている。中国発のバーチャルアーティストが日本や欧米のシーンに越境するフローが生まれるかどうか——それがこの提携の実質的な試金石になるだろう。


作り手・聴き手への示唆

AI音楽の議論は、多くの場合「Suno/Udioで生成されたトラックが音楽か」という問いに収斂しがちだ。しかし中国で起きていることは、それとは異なる展開を見せている。モーションキャプチャーで動くバーチャルアバターの後ろに人間がいる——その人間の歌声とパフォーマンスはどう評価されるべきか。AIが介在する「キャラクターのシェル」と、中身の「人間のタレント」の関係をどう考えるか。

テクノロジーが変わっても、「誰が/何が音楽を作っているか」という問いへの答えは単純にはならない。複雑さを引き受けることが、この時代に音楽を聴き続けることの意味でもある。


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