「AIが作った楽曲があまりにも多すぎる。これはフラウド(詐欺)だ」——Qobuzの北米マネージングディレクター、Dan Macktaはロサンゼルス・タイムズのインタビューでそう言い切った。

2007年設立のフランス発ハイレゾ配信サービス・Qobuzが、2025年に45.7%という異例の収益増加を達成した。SimilarWebのDigital 100レポートによれば、米国の音楽・メディアアプリの中で「最も成長速度の速いサービス」の2位に名前が挙がった(英国では3位)。月間アクティブユーザー数は120万人を突破している。


何が起きたか

Qobuzは2026年6月、ニューヨークで開催されたLibera Awardsで「インデペンデント・チャンピオン」を受賞した。インディー・アーティストとその支援インフラを対象にした、いわゆる「ミニ・グラミー」だ。

それよりも注目すべきは、受賞の背景にある成長の文脈だ。

Macktaによれば、2025年の急成長を支えた主因は「スイッチャー(乗り換えユーザー)」の増加だ。かつてストリーミングを使い始めた人は、そのままサービスを使い続けることが多かった。しかし2025年以降、「別のサービスに移ろう」という動機が明確に生まれ始めた。

その動機の一つが、AI生成楽曲の氾濫だ。


なぜこれが重要か

Qobuzは3つのことをやらないと明言している。

  1. AIで音声コンテンツを生成しない
  2. 人間のキュレーションをAIに置き換えない
  3. ユーザーデータを外部のAIモデルの学習に利用しない

AI生成とタグされた楽曲は、編集者のおすすめから除外されるか、プラットフォームから削除される。プレイリストや週間アルバム特集は、すべて人間の編集者が選んでいる。

「ちょっと時代遅れに聞こえるかもしれない——『え、人間が選んでるの?』って。でも、それを求めている人が思っていたより多かった」とMacktaは語る。

ストリーミング配信の経済性でも、Qobuzは異色の存在だ。2025年時点での平均ストリーム単価は0.01873ドル。SpotifyやApple Musicと比べて格段に高い。Macktaは「私たちが仮にSpotify規模になれば、このレートは下がるだろう」と認めつつも、現状ではインディー・レーベルへの還元が着実に増えていると言う。

また、「アルゴリズム疲れ」とも言うべき現象も後押しになっている。ニューヨークの地下鉄広告でBack Marketが「アルゴリズムなし。自分で100曲選ぶだけ」というコピーでiPod Nanoを売っていた、とMacktaはエピソードを紹介する。「音楽とのかかわりがハイテク化しすぎたことへの疲れ」がある。


論点と異なる見方

Qobuzの成長物語は読みやすいが、いくつかの留保も必要だ。

まず、120万MAUはSpotify(約7億人)と比べると依然として小さい。「成長速度が速い」ことと「実際の影響力がある」ことは別の話だ。

次に、「AIスロップ排除」は聴き手への価値提案としては明快だが、検出精度の問題は残る。Deezerが1日6万曲のAI生成楽曲を検出していると報告したように(2026-06-11の既報)、配信プラットフォーム全体がこの問題に直面している。Qobuzはどれだけ正確に「AI由来かどうか」を判定できているのかは公開されていない。

さらに、Qobuzを支持するユーザー層に「意識の高い音楽ファン」が集中しているという特性も無視できない。この層は確かに存在するが、ストリーミング市場全体を動かすマスではない。


今後どう展開しそうか

Qobuzは単なるストリーミングサービスとしての位置づけを超えようとしている。英レコード店Rough Tradeとの連携で、フィジカルの購買体験にデジタルレイヤーを加える実験も始めた。アルバム単位での購入・ダウンロードを推奨し、「ストリームより買う方がアーティストの取り分が多い」という価値観を積極的に打ち出している。

意外な成長ドライバーも報告されている。俳優のChelsea HandlerやChristina Hendricksが利用者として知られる一方、K-POPやBTSのファンコミュニティがハイレゾダウンロードを大量購入するという現象も起きている。「オーディオファイル向け」というイメージを超えた広がりが生まれつつある。

SpotifyがAIとの連携を深め、Apple MusicがDolby Atmosによる音質訴求を続ける中で、Qobuzが「人間キュレーション×高音質×アーティスト還元」という軸を磨き続けることができるかどうか。規模がまだ小さいことが今は競争優位(編集方針を妥協しなくてよい)だが、成長すればその判断は難しくなる。


作り手・聴き手への示唆

AI音楽を作っている人にとって、Qobuzの台頭は複雑なシグナルかもしれない。

プラットフォームが「AI由来の楽曲は推薦しない」という方針を明確にするなら、どこで聴いてもらえるかの話になってくる。SpotifyはまだAI音楽フィルターを設けていない。DeezerはAI検出ツールを展開し始めた。Qobuzは人間編集者が選んだ楽曲しか前面に出さない。

ただし、「AI生成楽曲がQobuzで聴けない」わけではない。配信自体は可能で、ユーザーが自分で検索すれば聴ける。排除されるのは編集者のおすすめ枠だ。

聴き手の立場からすれば、「誰が作ったか」と「誰が選んだか」という二つの問いが、これからの音楽消費においてより意識的になっていく予感がある。アルゴリズムの最適化が当たり前になったからこそ、「人間の目利き」に価値が生まれる逆説——Qobuzの成長はその一つの証左だ。


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