「Hello, is it me you're looking for?」

この一節をライオネル・リッチーの声で再現するAIツールが存在する今、その声を法的に守る手段はどれほどあるのか——リッチーは先週、一つの答えを出した。


何が起きたのか

6月11日、ライオネル・リッチーの管理会社RichLion Holdings, LLCが、米特許商標庁(USPTO)に4件のトレードマーク申請を提出した。申請の対象は、リッチーが楽曲のフレーズを自ら発音した音声の録音だ。

登録を目指しているフレーズは以下の4つ:

  • "Hello, Is It Me You're Looking For?"
  • "Say You, Say Me"
  • "Easy Like Sunday Morning"
  • "All Night Long"

いずれも彼の代表曲から取られたフレーズで、知的財産専門の弁護士Josh Gerben(Gerben IP)がUSPTOの申請データベースを調べて発見し、6月12日にブログで詳細を公開した。

申請は「使用意思に基づく(intent-to-use)」形式で行われており、現時点でリッチーはこれらのフレーズをトレードマークとして商業的に使用しているわけではない。申請では「音楽・エンターテイメント情報の提供、映像制作、アーティストに関するニュース提供」などのサービスに使用する意図が記載されている。


なぜこれが重要か

著作権法は楽曲・歌詞・録音物を保護するが、「声そのもの」を直接保護する連邦法は存在しない。声の保護はこれまで「パブリシティ権」という肖像権的な権利に頼ってきたが、これは州法によってカバー範囲がバラバラで、限界がある。

トレードマーク法は別の可能性を開く。音(サウンド)は、それが特定の出所を識別する「ソース識別子」として機能すると認められれば、商標登録が可能だ。NetflixのアプリRopが起動時に流れる「tu-dum」の音が音商標の典型例として知られている。

リッチーの申請が成立すれば、彼の声を模倣したAI音声を商業的に使用することに対して、著作権とは独立した法的根拠で差し止めや損害賠償を求められる可能性がある。

これはテイラー・スウィフトが4月に行った同様の申請(「Hey, it's Taylor」「Hey, it's Taylor Swift」およびライクネス)に続く動きだ。俳優のマシュー・マコノヒーは1993年の映画『Dazed and Confused』での決め台詞「Alright, alright, alright」で申請しており、トークショー司会者のジミー・キンメルも今年中に類似の申請を行っている。


法的ハードルは高い

Gerben IPは、この戦略の可能性を評価しながらも、重要な留保を付けている。

「技術的なトレードマークの観点から言えば、USPTOは申請された音が歌詞としてではなくトレードマークとして機能しているという証拠を求めるため、これらの申請は難しい」とGerbenは記している。

つまり「有名な歌詞である」という事実だけでは足りない。「リッチーの事業や製品を識別するブランドとして消費者に認識されている」という証拠が必要になる。登録が承認されるためには、リッチー側が実際に商業利用を通じてそのトレードマーク使用を確立していかなければならない。

「これらの申請が最終的に成功するかどうかは未知数だ。しかし成功すれば、AI時代にトレードマーク法がどう適応するかを示す重要なテストケースになりえる」とGerbenは述べた。


業界全体の文脈

アーティストの声を巡るAI問題は、個別の法的対策が追いつかないほど速く拡大している。ソニー・ミュージックは今年3月、AIでアーティストの声を模倣したとされるトラックをストリーミング各社に対して13万5000件以上削除要求した。2023年にはドレイクとThe Weekndの声を模したAI楽曲がSpotifyで25万回以上再生された後に削除された事案も起きている。

一方、連邦レベルの対策も動いている。NO FAKES法(No Obvious Fraud in Images, Keepsakes, and Expressions Act)は5月20日に議会へ再提出された——3度目の試みだ。この法案は人の声やライクネスに対する連邦知的財産権を初めて確立するものだが、過去2回は委員会を通過できなかった。

トレードマーク申請は、この連邦法の不在を埋めるための個人レベルの対応とも言える。


今後どう展開しそうか

USTOの審査には通常1〜2年かかる。リッチーの申請が承認されるかどうかは、「声のフレーズがブランドとして機能している」という使用実績をどう構築するかにかかっている。この点は法的に前例が少なく、判断が読みにくい。

一方でこの動きが重要なのは、法的な成否とは別の理由からでもある。声の商標登録という戦略が知名度を持てば、AIによる音声クローニングに対するリスクが可視化される。「声はブランドである」という認識が広まれば、AIツールの開発者やプラットフォームへのプレッシャーにもなりうる。

音楽業界が「著作権」という一つの法的フレームワークに頼り続けていた時代から、複数の法的ツールを組み合わせる段階に移りつつある。トレードマークはその一つだ。


作り手・聴き手への示唆

AI音声クローニングは、有名アーティストだけの問題ではない。技術的には誰の声でも複製できる。著名人が声の商標登録という戦略に動いているのは、既存の法的枠組みだけではAIによる模倣に対抗しきれないという認識の表れでもある。

AI音楽を制作する側として意識しておくべきなのは、「声の模倣」が法的リスクを伴う行為として今後ますます明確に位置づけられていくという方向性だ。AIが「誰かの声っぽい」出力を生成する機能を使う際は、その声の本人が何を求めているかを考慮するフェーズが来ている。


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