2026年6月4日、Sunoはマサチューセッツ州連邦地方裁判所に反論書面を提出した。UMG(Universal Music Group)とSony Music Entertainmentが5月21日に求めていた「訴訟に6万1,026曲を追加する」という申請を、裁判所が認めるべきではないと主張するものだ。

元の訴状(2024年6月提訴)が対象としていた楽曲数は560曲だった。それを109倍に拡大しようとしているのが、今回の申請だ。


何が起きているか

経緯を整理する。

2024年6月、RIAAはUMG・Sony・Warner Musicを代理してSunoとUdioをそれぞれ著作権侵害で提訴した。当初の訴状には「代表的な作品」として各社の楽曲が限定的に列挙されていた。

その後、ディスカバリー(証拠開示手続き)の過程で、UMGとSonyは音声指紋技術(Audible Magic)を使ってSunoの訓練データを分析。5月21日、「自社の音源が6万1,026曲にわたって訓練に使われていた」として、それら全曲を訴訟の対象に加える動議を申し立てた。

これに対してSunoが出した答えが、6月4日の反論書面だ。


Sunoの主張:「これは常套手段だ」

Sunoの法務チームが書面の中で使った言葉は辛辣だ。

「これは大規模著作権ホルダーが踏む、おなじみの手順の1ページにすぎない。まず『代表的な作品』を主張して訴訟を起こし、発見調査の過程で数年を費やし、その後、事実発見が終わる頃になって作品リストを指数関数的に膨張させようとする」(Sunoの反論書面より)

Sunoが求めているのは、訴訟の拡大よりも先に「フェアユースの判断」を下すことだ。

AIモデルの訓練が著作権法上の「フェアユース(公正利用)」に当たるかどうか——これが本件の核心的な争点だが、ディスカバリーには2年近くを費やしてもなお判断は出ていない。「6万曲を追加するなら、新たなディスカバリーが必要になり、フェアユースの審理がさらに遅れる」というのがSunoの論理だ。

書面ではBartz v. AnthropicおよびKadrey v. Meta Platformsという2つの判決を引用し、どちらも「生成AIモデルの訓練は変容的(transformative)な利用に当たる」という判断をしたと論拠に加えた。


対するUMG・Sonyの主張

レーベル側は、Sunoの主張を「根拠がない」と一蹴した。

「ディスカバリーが遅れたのは、Sunoが自社データの提供を拒み続けたからだ」というのがレーベル側の立場だ。

また同時期にもう一つの前線がある。Sunoは訓練に使った音声ファイルの「総数」を公開記録から除外するよう裁判所に求めていたが、UMG・Sonyはこれにも反対した。

「Sunoは訴状への回答書で、自社サービスの構築には『数千万件の異なる種類の音源サンプル』を使ったと自ら認めた。その規模の複製を公に認めておきながら、より精確な件数の開示が『競合上の損害をもたらす』とは到底言えない」(UMG・Sonyの主張)

Sunoは「件数の開示は競争上の機密に当たる」と主張していた。これに対し、レーベル側は「既にコピーの規模は自認している」として退けた。


なぜこれが重要か

この訴訟は、AI音楽業界全体が固唾を飲んで見守る試金石だ。

「AIモデルの訓練は著作権侵害かフェアユースか」という問いに、アメリカの連邦裁判所が最終的な判断を下せば、業界の向かう先が大きく変わる。Sunoが求めているのはまさにその答えだ——できるだけ早く、できるだけ限られた争点で。

対照的なのがUdioの動きだ。同じ2024年6月に提訴されたUdioは、6月10日にNMPA(全米音楽出版社協会)との業界横断ライセンス合意を発表した。かつての被告企業が、業界パートナーへと姿を変えつつある。

Sunoが訴訟拡大を押し返すことに成功すれば、6万曲分の損害賠償リスクを限定しながらフェアユースの判決を引き出せる可能性がある。逆に裁判所が拡大を認めれば、1曲あたりの法定損害賠償額によっては企業存続にかかわる数字になりうる。


今後どう展開しそうか

裁判所の判断が出るまで、現時点では予測が難しい。いくつかの分岐点がある。

  • 拡大申請の可否:裁判所がUMG・Sonyの6万曲追加を認めるか却下するかで、訴訟の規模と期間が大きく変わる
  • フェアユース審理の時期:Sunoが求めているのは「先にフェアユースを判断してほしい」だが、裁判所がどの順番で進めるかは不明だ
  • Bartz・Kadrey判決の波及効果:AI訓練をフェアユースとした他の判決が、音楽著作権の文脈でどこまで通用するかは、まだ見えていない

Sunoは訴訟で戦いながらも、一方でWMG(Warner Music Group)との個別ライセンス契約を締結するなど、業界との関係を築く動きも続けている。法廷とビジネスの両側面を同時に進める局面が続きそうだ。


作り手・聴き手への示唆

AI音楽を使う立場から見ると、この訴訟の帰結は実用的な意味を持つ。

もしSunoがフェアユースで勝訴すれば、「既存の音楽で学習した生成AIツールを使うこと自体は合法」という前提が強固になる。逆に敗訴すれば、学習データのライセンス取得が業界の必須要件になり、ツールのコスト構造や使える楽曲の幅が変わってくる。

KLAYが「最初からライセンスを取る」道を歩み、Udoが「和解してライセンスへ転換」し、Sunoが「フェアユースを法廷で争う」——三者が同じ時代に異なる選択をしている。この結末が出揃う頃に、AI音楽ビジネスの「正解」が見えてくるかもしれない。


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