全米音楽出版社協会(NMPA)が6月10日、ニューヨークで開催した年次総会でAI音楽プラットフォームUdioとの業界横断ライセンス契約を発表した。会長兼CEOのデイヴィッド・イスラエライト(David Israelite)は「メジャーなAI音楽会社との初の業界全体ライセンス」と呼んだ。同日、別のAI音楽プラットフォームKLAYとの原則合意も明らかにされた。


何が起きたか

NMPAはUdioとの契約について、AI学習において「楽曲(作詞作曲の権利)と音源(録音物の権利)を対等に評価した初のケース」と強調した。音楽著作権の世界では両者は別の権利として扱われるが、AI企業との交渉ではこれまで録音物の権利ばかりが前景化しがちだったという問題意識がある。

「今日、私たちは主要なAI音楽会社との初の業界全体ライセンス契約を発表します」(David Israelite)

NMPA会員は6月15日(月)よりこの契約を確認・参加できるようになる予定で、Udioが直接会員に連絡を取る形で進める。

もう一つの合意相手であるKLAYは、イスラエライトによれば「大規模音楽モデルをすでにライセンス済みの音源のみで訓練している」プラットフォームで、「サービスを開始する前にライセンスを確保した」点が特筆すべきポイントとして紹介された。

「我々の業界では許可を求めるより許しを求める企業が多すぎる。KLAYはその正反対だ」(David Israelite)

KLAYはすでに2025年11月に3大メジャー(UMG・Sony・WMG)とライセンス契約を締結している。NMPA会員向けの正式展開は今夏を予定している。


なぜこれが重要か

2024年6月、RIAAはUMG・Sony・WMGを代表してUdioとSunoを著作権の大規模侵害で提訴した。そのUdioが今回、音楽出版業界の中核団体と業界横断の契約を結んだことは、状況の大きな変化を示している。

Udioはすでに2025年10月にUMGと、同11月にWMGと、2026年1月にMerlinと、4月にKobaltと個別に和解・ライセンス合意を積み重ねてきた。Sonyだけは依然係争中だが、Udioは「著作権侵害の被告」から「ライセンスを持つ業界パートナー」へと転換しつつある。

業界横断の枠組みが生まれたことで、個々の出版社が個別交渉を繰り返す手間が省ける。NMPAが「まとめて交渉窓口」として機能することは、中小の独立系出版社にとっても対AI企業の交渉力を底上げする効果が期待できる。


論点と異なる見方

もっとも、この合意が業界全体の問題を解決するわけではない。

イスラエライト自身が強調したのは、「悪質なAI業者を訴えることとよいAIパートナーにライセンスを与えることは矛盾しない」という点だ。

「NMPAは両方をやる。そして、このアプローチを取らない企業——それが何を意味するか、あなたたちはわかっているはずだ」

つまり、今回の合意は「交渉に来た相手との和解」であり、交渉テーブルに着いていない企業へのプレッシャーでもある。

また、AI学習データの評価・対価分配をめぐる技術的・法的な問いは未解決のまま残る。Udioの共同創業者は以前、「AIモデルの出力物を特定の学習データと直接結びつけるアトリビューションは非常に困難、もしかしたら不可能だ」と述べており、「対等評価」がどう実装されるかの具体論はまだ見えていない。

ストリーミング詐欺も深刻な問題として取り上げられた。イスラエライトによれば、Apple Musicは2025年に約20億件の不正ストリーミングをプラットフォーム上で検出した。Deezerには1日あたり7万5000件以上のAI生成トラックが流入している。こうした「量産・詐取目的のAI利用」への対応は、ライセンス契約だけでは解決しない別問題だ。


今後どう展開しそうか

NMPAは9月にナッシュビルで「AI Songs Summit」を開催する予定だ。出版社、著作権管理団体、ソングライター団体が集まり、詐欺対策と「AIの悪意ある利用」に関するベストプラクティスを策定するという。

短期的には、6月15日以降にNMPA会員がUdio契約にどの程度参加するかが注目点になる。また、SonyとUdioの残る訴訟の行方もこの枠組みに影響を与えうる。

KLAYの正式展開は今夏。「ライセンスを取ってから出発した」というKLAYのモデルが実際に機能するか——ビジネスとして成立するかも含めて——は、AI音楽業界の今後の「お手本」になりうるため注目している。


作り手・聴き手への示唆

AI音楽プラットフォームを使っている側にとって、この動きが即座に何かを変えるわけではない。ただ、「AI音楽 = 著作権的にアウト」という前提が揺らいでいることは確かだ。

Udoのようにライセンスを取った会社と、取っていない会社とで、今後プラットフォームとしての信頼性や法的な安定性が分かれていく可能性がある。どのツールを使うかを選ぶとき、その背景にある権利処理の状況を知っておくことは、これからの音楽制作において無視できない要素になりつつある。


ソース