日本音楽著作権協会(JASRAC)が2026年6月11日、生成AIと著作権に関するガイドラインと基本的な考え方をまとめた特設ページ「創造のサイクルとの調和がとれたAI利活用の実現に向けて」を公開した。

AI音楽ツールを使って楽曲を制作するクリエイターが増える中、「自分の作品はJASRACに管理してもらえるのか」という問いに、JASRACが初めて正面から答えた形だ。


何が起きたか

ガイドラインの核心は、「人間の創作的寄与があるかどうか」による線引きだ。

シンプルな指示に基づいてAIが自律的に生成した楽曲や歌詞——つまり人間が創作に実質的に寄与していない作品——は、著作権法上の「著作物」に該当しないため、JASRACによる管理の対象外になる。

一方、歌詞か楽曲の一方をAIが生成し、もう一方を人間が創作した場合は、人間が創作した部分に限り管理の対象になる。

具体的な例として、特設ページでは以下のケースが示されている。

  • 作詞がAI生成、作曲が人間の場合:曲のみを利用する際の管理率は100%、詞のみを利用する際は0%
  • J-WID(JASRACの作品データベース)では、人間が創作した部分の所属団体は「JASRAC」、AI制作部分は「AI」と表示される

この扱いは、著作権が切れたパブリックドメイン作品との組み合わせと同じ考え方に基づく。


「AIが作った」と詐称したら法的責任

ガイドラインはクリエイターへの警告も含んでいる。

JASRACと管理委託契約を結んでいる委託者には、「届け出る作品が人の創作的寄与による著作物である」と保証する義務がある。AIが自律的に生成した著作物でない作品を、著作者を詐称して届け出た場合は保証義務違反となり、委託者に法的責任が生じるとしている。

AI音楽ツールで生成した作品を「自分が作った」として登録することへの牽制だ。


なぜこれが重要か

日本のAI音楽シーンにとって、この発表は実務的な意味を持つ。

これまでは「AIで作った曲をJASRACに登録できるのか」という問い自体が宙ぶらりんのままだった。今回のガイドラインで、少なくとも「人間が関与した部分があれば管理してもらえる」という基準が示された。歌詞を自分で書いてAIに作曲させた曲、あるいはAIが生成したフレーズを大幅に編集した曲——こういった作品がどう扱われるか、判断の軸が生まれたことになる。

ただし、「人間の創作的寄与があるかどうか」という判断基準は、実際には曖昧な領域が多い。どこまでがAIの自律的な生成で、どこからが人間の創作的編集なのか——この線引きをめぐる個別の判断は、今後も問われ続けるだろう。


著作権法改正への働きかけも

特設ページにはもう一つ重要な内容がある。著作権法第30条の4への異議申し立てだ。

現行法のもとでは、生成AIの開発目的の機械学習は、原則として権利者の許諾なく行えるとされている。JASRACはこの規定に対して「権利者が可否を判断できる選択の機会の確保」が必要だと主張し、改正を求める立場を明確にした。

楽曲が無断でAIモデルの学習データに使われることへの懸念は、多くの音楽クリエイターが共有するものだ。JASRACが正式にこの立場をページ上で表明したことは、今後の法制度の議論に一定の影響を与えうる。


論点と異なる見方

「人間の創作的寄与」という基準は、便利に聞こえるが実運用は難しい。

たとえばSunoやUdioでプロンプトを工夫して何十回も生成を繰り返し、最もイメージに近い出力を選んだ場合——それは「創作」か「選択」か。AIが生成したメロディーに人間がアレンジを加えた場合、どの程度の変更が「創作的寄与」とみなされるのか。

また、今回のガイドラインはあくまでJASRACの管理対象の話だ。著作物として保護されるかどうか(著作権が発生するかどうか)の問題は、文化庁や裁判所の判断に委ねられており、JASRACの方針がそれを決めるわけではない。

国際的には、米国著作権局がAI生成コンテンツの著作権登録に対して「人間による創作性」を要件としており、日本の動きはその議論と呼応している。ただし各国の法律は異なる。グローバルに活動するAI音楽クリエイターにとっては、どの国の法制度のもとで考えるかという問題も残る。


今後どう展開しそうか

ガイドラインは今後、実際の登録申請を通じて試されることになる。個別ケースでの判断の積み重ねによって、「人間の創作的寄与」の解釈が具体化されていくはずだ。

著作権法第30条の4の改正議論については、文化庁が審議を続けており、JASRACの今回の立場表明はその議論への明確なインプットになる。AI企業側(学習利用の自由を求める立場)との対立は今後も続くとみられる。


作り手へのメモ

AIで音楽を作っていて、JASRAC登録を考えたことがある人は、今回のガイドラインを一度確認しておく価値がある。「全部AIに生成させた曲」と「AIを使いながら自分でも手を入れた曲」では、著作権上の扱いが変わる。

ツールが変わっても、「誰が何を作ったか」という問いはなくならない。JASRACのガイドラインはその問いに対する、現時点での日本の管理団体としての答えだ。


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