6月8日、Googleはインディーアーティスト集団から提起されたLyria 3著作権訴訟に対し、訴訟棄却を求める申立を行った。

その主張の核心は、他のAI企業が使ってきた「フェアユース」ではない。「YouTubeの利用規約が、すでにAI学習を許諾している」——Googleはそう主張している。


何が起きたか

2026年2月18日、GoogleはGeminiアプリ上でAI音楽生成モデル「Lyria 3」を一般公開した。テキストや画像から最長30秒の楽曲(ボーカル・歌詞つき)を生成できるモデルで、Googleによれば月間アクティブユーザー7億5000万人が利用できるGeminiの一機能として組み込まれた。

それから約3週間後の3月6日、インディーミュージシャンとソングライターのグループがイリノイ州北部連邦地裁にGoogleを提訴した。「Lyria 3の開発にあたり、Googleはインターネット上の音楽動画約5000万本からおよそ4400万件のクリップ・28万時間の音楽を無断でコピーした」というのが訴状(全118ページ)の骨子だ。

原告の顔ぶれは、ニューヨーク在住のシンガーソングライター・Sam Kogonを筆頭に、インディーR&BグループのAttack the Sound、フォークロックデュオのStan and James Burjek、シカゴのバンドDirectrixのメンバーら。SunoやUdioを相手に訴訟を起こしたメンバーと重なる。

そして6月8日、Google側の弁護士(法律事務所Quinn Emanuel)が反論の申立を提出した。その内容が業界を驚かせた。


「フェアユース」ではなく「契約ライセンス」という論法

SunoやUdioに対する訴訟では、被告側はいずれも「フェアユース(公正使用)」——つまり「AI学習は変換的な使用であり著作権侵害にあたらない」——という論理で争ってきた。

Googleが持ち出したのはそれとは別の論法だ。

「原告らはYouTubeに対し、また同サービスを提供するGoogleに対し、アップロードしたコンテンツを利用するための広範なライセンスを付与した。そのライセンスはYouTubeの利用規約に明記されており、訴状に記された行為を許諾するものだ」

申立書はそう述べている。

問題の利用規約条項はこうだ。

「本サービスにコンテンツを提供することにより、お客様はYouTubeに対し、当該コンテンツを(複製、配布、二次的著作物の作成、表示、実演を含む形で)本サービスおよびYouTubeの(ならびにその承継者・関連会社の)ビジネスに関連して使用する、全世界的、非独占的、ロイヤリティフリー、サブライセンス可能かつ譲渡可能なライセンスを付与します」

YouTubeに楽曲をアップロードした瞬間、この条項に同意したことになる。GoogleはここでいうAI学習が「ビジネスに関連した使用」であり「二次的著作物の作成」に含まれると主張している。


なぜこれが重要か

この論法は、AI著作権論争の構図を変えうる。

フェアユース議論は「著作権で保護されたコンテンツを学習に使う行為が法的に許されるか」という問いだった。判例次第で業界全体が揺れる。一方でGoogleの主張は「そもそも許諾を得ている」という前提であり、ToSが有効である限り訴訟そのものが成立しないという論理だ。

この議論が通れば、YouTubeに音楽を上げている——上げていた——すべてのインディーアーティストは、知らぬ間にGoogleのAIモデル学習に許諾を与えていたことになる。

一方、メジャーレーベルや大手パブリッシャーはYouTubeと個別のライセンス契約を結んでいる。Universal Music GroupのCEO、Lucian Graingeは2025年10月の決算説明で、YouTubeとの契約更新に際し「AIコンテンツに関するアーティストとライターへの重要なガードレールと保護を確保した」と述べている。つまりラベル経由で配信されている楽曲については、個別契約の条件次第でAI学習の扱いが変わる可能性がある。

今回の訴訟が狙い撃ちにしているのは、インディーアーティストが「個人ユーザーとして直接YouTubeに上げた楽曲」だ。


論点と異なる見方

原告側は、GoogleがYouTube経由で世界の音楽流通インフラを事実上支配している点を強調している。

「Googleは単に原告らの音楽にアクセスしただけでなく、その音楽が世界に届く仕組みそのものを運営している。Content IDを通じて、権利保護まで担ってきた」

Content IDに登録する際にも楽曲データをGoogleに提供しているわけで、「ガードレールを提供すると見せかけて学習素材を集めてきた」という見方も成り立つ。

逆にGoogleの論理には一定の整合性もある。YouTubeに楽曲を上げるとき、大多数のユーザーはToSをきちんと読んでいない。しかし「読まなかった」は法的な免責にならない。ToS上の許諾範囲が「ビジネス目的での利用」を含む以上、AI学習がその範囲に入るかどうかは解釈の問題になる。

裁判所がこの申立をどう判断するかは、まだわからない。


今後どう展開しそうか

原告側は今後、申立に対する反論を提出する。争点は「ToSの『ビジネスへの利用』という文言がAI学習にまで及ぶか」という契約解釈の問いになる。

広い解釈を認めれば、YouTubeというプラットフォームはアップロード時点でAI学習への許諾書を兼ねることになる。それが司法に認められれば、他のプラットフォームも同様の条項を盾にする可能性がある。

Googleは今後もToS論法を前面に出すとみられる。フェアユースより確実性が高い防衛策であり、かつGoogleはYouTubeを所有する企業として他社にはない法的基盤を持っている。


作り手へのメモ

今回の訴訟が示すのは、「どこに音楽を上げるか」が今後ますます戦略的な決断になる、ということだ。YouTubeのToSがAI学習を網羅する利用許諾として機能するなら、プラットフォームに楽曲を置く行為はその会社とのライセンス契約を意味しうる。

まだ判決は出ていない。だが、この訴訟の行方は「インディーアーティストの楽曲がどんな条件でAIモデルの素材になるか」を大きく左右する。


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