AI音楽ジェネレーターをめぐる著作権訴訟は「解決」に向かいつつある——はずだった。しかしその「解決」が、新たな訴訟を生んでいる。

2026年6月5日、アメリカ音楽家連盟(American Federation of Musicians、以下AFM)がユニバーサル ミュージック グループ(UMG)とワーナー ミュージック グループ(WMG)を提訴した。両レーベルがAI音楽ジェネレーターのSunoおよびUdioとの訴訟を和解で終結させた際に、ミュージシャンへの補償を「拒否した」というのがAFMの主張だ。


何が起きたか

時系列を整理する。

2024年中頃、RIAA(全米レコード協会)がSunoとUdioを相手取り、著作権の大規模侵害を訴えた。その後、訴訟は次々に決着へと動いた。

  • WMGとSuno:2025年11月に和解・ライセンス契約締結
  • UMGとUdio:同年中に和解・ライセンス契約締結
  • WMGとUdio:同様に和解・ライセンス契約締結

SunoはUMGおよびSony Musicとの訴訟は今も係争中だが、主要レーベルとの一部和解は既に成立している。

AFMが問題にしているのは、この和解が「誰のために」行われたのかという点だ。音楽ライブラリをAIの学習に使われたのは、楽曲に参加したミュージシャンたちの演奏だ。しかしAFMによれば、レーベルはその補償を支払うことを拒否したという。Billboardの報道では、訴状には「補償の提供を拒否した(refused to provide compensation)」という表現が使われているとされる。


なぜこれが重要か

この訴訟が突きつけているのは、著作権制度の構造的な問題だ。

レコーディングの著作権(音源著作権)は、一般的に「原盤権」としてレーベルが保有している。セッションミュージシャンは演奏の対価を契約に基づいて受け取るが、その後の使用許諾や和解金の分配については、原盤権を持つレーベルの判断に委ねられる。

つまり、レーベルがAI企業と和解して金銭を受け取ったとしても、その録音に参加したミュージシャンが自動的に分け前を受け取る仕組みにはなっていない。AFMは「楽曲を学習データとして利用されたのは自分たちの演奏だ」という立場から、その補償を求めている。

この構図は、AI音楽訴訟が「解決しても、それが誰の解決なのか」という問いを残すことを示している。


論点・異なる見方

レーベルの立場

レーベル側の立場は、現時点では明確には表明されていない。ただし彼らの論理を想定すると、「和解は音源著作権者としてのレーベルが行ったもの」であり、個別の演奏者への分配義務は既存の労使協定や契約に基づいて判断されるという線が考えられる。

AFMの立場

AFMは演奏家を代表する労働組合であり、AI学習に使われた録音物に参加したミュージシャンへの補償を求めている。仮に勝訴すれば、AI学習に関するレーベルの和解金の分配ルールに影響を与えうる先例となる。

「訴訟解決 ≠ アーティストへの補償」という問題

この訴訟は、より広い問題を可視化している。AI音楽の著作権問題に関心を持つ多くの人が想定する「解決」——レーベルが訴え、AI企業が和解し、ライセンス料が支払われる——は、必ずしも音楽を実際に作った演奏者や作曲家に金が届くことを意味しない。和解の対価がどこに流れるかは、また別の問題だ。


今後どう展開しそうか

この訴訟が注目されるのは、AI音楽をめぐる法的議論を「レーベル vs. AI企業」から「ミュージシャン vs. レーベル」へと広げる可能性があるからだ。

もしAFMが勝訴あるいは有利な和解を勝ち取れば、今後のAI訴訟の和解交渉において、ミュージシャンへの分配を条件として盛り込むことが標準化されるかもしれない。逆にレーベル側が勝訴すれば、現行の原盤権制度がAI時代においても演奏者の利益に対して優先されるという解釈が固まる。

なお、SunoはUMGとSonyとの訴訟は依然として係争中であり、この件が別の和解に至れば、同様の「分配をめぐる争い」が再燃する可能性もある。


作り手・聴き手への示唆

AI音楽の学習データ問題を「レーベルとAI企業の戦い」として見ていた人には、今回の訴訟は意外に映るかもしれない。しかし、AI音楽が「誰かの演奏で学習されている」という事実は変わらない。

レーベルがAI企業との間で何を交渉し、何を得て、何をしなかったか——その透明性が問われている。AI音楽をめぐる議論を、「AIが曲を作れるかどうか」だけでなく、「その経済の恩恵が誰に届くか」という視点から見ることは、これからさらに重要になっていくだろう。


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