AI音楽生成サービスのSunoが、シリーズDで4億ドル超を調達した。評価額は54億ドル(約8,100億円)。Universal Music GroupとSony Musicとの著作権訴訟を抱えたまま、それでも投資家はAI音楽に賭け続けている。


何が起きたか

2026年6月3日、SunoはシリーズDラウンドでBond Capital主導のもと4億ドル超(post-money評価額54億ドル)を調達したと発表した。

参加した投資家はIVP、Forerunner、Union Square Ventures、Alkeon、Quiet、そして既存投資家のMatrix、Lightspeed、Menlo Ventures、Schroders Capitalとなっている。

CEO兼共同創業者のMikey Shulman氏はブログ投稿でこう述べた。

「この資金調達は、最も重要なことを加速するためのものです。より多くの人が音楽で自己表現を行えるよう支援しながら、Sunoのアーティストやクリエイターにとって可能なことを広げ続けていきます」

今回の調達は、7ヶ月前の2025年11月に締めたシリーズC(2億5000万ドル、評価額24.5億ドル)から評価額で2倍以上の上昇だ。当初は「2億5000万ドル超の調達を検討中」と報じられていたが、最終的な調達額はそれを大幅に超えた。

Bloombergのインタビューでは、Shulman CEOが「資金はさらなる採用、新製品開発、成長加速に充てる」と語った。現在約200名の従業員を、年内に最大70%増させる計画という。


なぜこれが重要か

54億ドルという評価額は、AI音楽という市場が「投資家にとって本物の賭けになった」ことを示す数字だ。

Sunoの業績を見れば、なぜ投資家が集まるかは理解できる。2026年2月時点で有料サブスクライバーは200万人を突破し、同社は年換算収益3億ドルペースで成長していると明かしている。Shulman CEOはBloombergに「ユーザーのエンゲージメントが高まり、解約率が低下している。より多くのユーザーがプロダクトに惹きつけられ、戻ってきている」と話している。

ただし、見えていない側面もある。

この調達は著作権訴訟の渦中で行われた。RIAAはSunoとUdioを2024年6月に「著作権の大量侵害」として提訴。Sunoは2025年11月にWarner Music Groupとは和解・ライセンス契約を締結したものの、UMGとSony Musicとの訴訟は今も継続中だ。UMGとSonyは先月、Sunoの学習データ内に自社音源を特定したとして、訴訟対象楽曲を560点から61,026点以上に拡大する申し立てを行った。

それでも投資家は4億ドルを投じた。その解釈は一つではない。


論点・異なる見方

「訴訟コストより成長ポテンシャルが大きい」という見方

VC的な論理でいえば、答えはシンプルだ。3億ドルの年間収益ペース、200万人の有料ユーザー、解約率の低下——これは使えるプロダクトの証拠だ。訴訟の和解費用がいくらかかっても、この成長曲線が維持されれば投資対効果が出ると投資家は判断したということになる。

実際、競合のUdioがUMGとWarner Musicと和解してライセンス型の新プラットフォームを準備中という動きは、「訴訟は解決可能」という前例を作った。Sunoも最終的には同様の落としどころを探すだろう、という楽観論は成立しうる。

「54億ドルの評価は過剰では」という見方

一方で、AI音楽という市場全体の規模感と54億ドルを比べれば、違和感を持つ人もいる。Sunoの収益がどれだけ伸びても、既存の音楽ビジネス(Spotifyの時価総額は700億ドル超)と比較した時、この評価額を正当化するシナリオは相当に楽観的なものになる。

加えて、著作権訴訟の帰結次第では、現行モデルの根本的な変更を迫られる可能性も残っている。

「ストリーミング側のAI洪水がSunoを後押しする」

Deezerのデータは、Sunoのような企業がいかに大きな波の上にいるかを示している。Deezerには2026年4月時点で1日あたり7万5000本のAI生成トラックが流入しており、全新規アップロードの44%を占める。2025年1月の1万本から、わずか15ヶ月で7.5倍に拡大した。Music Business WorldwideのTim Ingham編集長は「2026年W杯開幕(あと8日)までにAIトラックがアップロードの50%を占める可能性がある」と予測していた。

AIで音楽を作る人がここまで増えているなら、そのツールを提供するプラットフォームの需要はまだ伸びる——そう見ることはできる。


今後どう展開しそうか

短期的な注目点は二つある。

一つはUMGとSonyとの訴訟の行方だ。61,026点超の楽曲を加えた修正訴状の審理がどう進むか。Udioが和解に向かった道をSunoも歩むのか、あるいは法廷で争い続けるのか。今回の4億ドルは、長期戦を見据えた「体力作り」でもある、と読むことはできる。

もう一つはユーザー規模の拡大とプロダクト展開だ。Shulman CEOが示した「70%増の採用計画」が実行されれば、年内に新機能・新製品が出てくる可能性が高い。今後12ヶ月でSunoがどこまで機能を広げるかは、評価額54億ドルが正当化されるかどうかの大きな判断材料になるだろう。


作り手・聴き手への示唆

Sunoが「使える」プロダクトであることは、200万人の有料ユーザーという数字が示している。技術的な問いより先に、ビジネスが動いている。

AI音楽を作っている人にとって、Sunoという選択肢がここまで巨大な投資を集めているという事実は、「このツールは少なくとも数年間は続く」という安心感をある程度与えるかもしれない。訴訟によってサービスが突然終わるリスクは、54億ドルの評価と4億ドルの資金があれば、当面は下がると見てよい。

聴き手・社会的な視点で言えば、問いは残る。Deezerに1日7万5000本のAIトラックが流れ込み、Sunoの評価額が2倍になる世界で、音楽の多様性はどうなるのか。大量に生成されることと、届く音楽の幅が広がることは、必ずしも同じではない。


ソース