AI普及の「世代別」を聞かれると、たいていの人は「若い人ほど使っている」と答える。だが現実は、その直感とずれている。


何が起きたか

Epidemic Soundが「Future of the Creator Economy Report 2026」を公開した。対象は動画コンテンツを制作するクリエイターで、AI活用の実態や意識を調査したものだ。

主な数字はこうだ:

  • クリエイターの94%がすでにAIツールを使用している
  • 72%が今後1年でAI使用を増やすと回答
  • 89%が「同業他者に追いつくためのプレッシャーを感じている」

AIの用途別では、コンテンツ・マーケティング強化(46%)、アイデアやスクリプト生成(44%)、編集・制作作業(43%)、オーディエンス分析(33%)、そして完全AI生成コンテンツの制作(30%)という順だった。


なぜこれが重要か

94%という数字は圧倒的に見える。だが、調査の中に埋まっている世代別データを掘り下げると、話が変わってくる。

  • 35〜44歳のクリエイターのうち、今後AI使用を増やすと答えたのは75%
  • 18〜24歳のクリエイターで同じ回答をしたのは57%にとどまる
  • さらに、18〜24歳の13%はAIを一切使っていない

Z世代——まさに「デジタルネイティブ」「AIネイティブ」と呼ばれる層——が、最もAI採用に慎重だ。年齢が上がるほど積極的に使おうとしている、という構図が見えてくる。

単純に「普及している」という話をするだけでは、この逆転現象が見えない。


論点・異なる見方

なぜZ世代はAIに慎重なのか

理由は複数考えられる。

ひとつは真正性(authenticity)の問題だ。TikTokやInstagramで育ったZ世代のクリエイターは、「本物らしさ」がエンゲージメントを左右することを体感的に知っている。フォロワーはAI感に敏感で、見破られるリスクを現実として感じている——という経験則が、慎重さにつながっている可能性がある。

もうひとつはスキルの問題ではないかもしれない。年長のクリエイターがAIを採用する動機の一つは「苦手な作業を補う」ことだ。動画編集、スクリプト構成、サムネイル制作——これらをAIに任せることで生産性が上がる。Z世代は、そもそもこれらのスキルを身につけたうえでコンテンツ制作を始めた世代とも言える。補う必要があまりないから、使う必然性が低い、という見方だ。

もっと単純に、差別化の意識という読み方もできる。「みんなが使っているからこそ、使わないことが強みになる」——意識的かどうかはともかく、この構造はソーシャルメディアの文脈では働きやすい。

「プレッシャーで使う」構造への疑問

89%が「プレッシャーを感じている」という数字は、面白い読み方ができる。94%が使っているとして、その多くは「使いたいから使っている」のではなく「使わないと遅れを取る」という不安から使っている可能性がある。採用率の高さが、必ずしも熱量の高さを意味しない。

プレッシャーに駆動された採用と、動機に駆動された採用は、アウトプットの質が違う可能性がある。恐怖から使うツールで良いものが作れるかどうか、は別の問いだ。

この調査を出したのがEpidemic Soundだという点

一点留意が必要なのは、この調査の発行元がEpidemic Soundだということだ。同社は動画クリエイター向けの音楽ライセンスサービスを提供しており、クリエイターのAI需要が増えるほど「AIツールとして使える楽曲ライブラリ」の価値が増すビジネス構造を持っている。

調査の数字が誇張されているとは言わないが、「クリエイターはAIを求めている」というメッセージを前面に出すことが、自社のポジションにとって都合が良いのは確かだ。数字の受け取り方には、その文脈を頭に置いておいたほうがいい。


今後どう展開しそうか

Z世代クリエイターが示す「慎重さ」が一時的なものなのか、定着するのかは現時点では判断できない。ただ、いくつかの方向性は想像できる。

「AI不使用」を明示することが、ある種のクリエイターにとってのブランドになる可能性はある。特に音楽・アート系のコンテンツでは、制作プロセスの「人間性」が価値を持ちやすい。AI生成コンテンツが氾濫するほど、「手で作った」という事実が差別化として機能する逆説だ。

一方、プレッシャーに追い立てられたAI採用が続けば、クリエイター全体のコンテンツ品質が均質化するリスクもある。ツールが同じなら、アウトプットも似てくる——という傾向は、すでに一部のコンテンツジャンルで観察されている。


作り手・聴き手への示唆

AI音楽を作っているクリエイターにとって、この調査が示すのは「若いオーディエンスほどAIコンテンツへのリテラシーが高い」という可能性だ。作り手であるZ世代がAIに慎重なのと同じ感覚で、リスナーとしてのZ世代もAI音楽を見ている可能性がある。

「使えばいい、使いたければ」というスタンスは変わらない。ただ、誰に向けて作っているかによって、AIとの関わり方を意識的に選ぶことには意味がある。

ツールが何かより、使い方に意図があるかどうか——その問いは、世代を問わず残り続ける。


ソース