2026年5月21日と22日、AI音楽をめぐる著作権訴訟に関わる二つの裁判所文書が相次いで提出された。

どちらも「申告楽曲数の大幅拡大を求める申請」だ。


何が起きたか

Suno訴訟(5月21日)

Universal Music GroupとSony Music Entertainmentは、マサチューセッツ州連邦地裁に対し、AI音楽生成サービスSunoへの著作権侵害訴訟に6万1,026件の著作権楽曲を追加申請する許可を求めた。

2024年6月に提起された当初の訴訟が申告していた楽曲数は560件。それが約109倍に膨れた。

この数字を出したのは、音声指紋技術「Audible Magic」を用いた分析だ。Sunoの学習データをAudible Magicで照合したところ、UMGとSonyの楽曲との一致が大量に検出された。ただし両社は「Audible Magicの結果のうち確認できた代表的なサブセット」を申告対象としたと述べており、6万件超は「検出された全件の小さな一部」にすぎないとしている。

発見の経緯は複雑だ。Sunoは当初、Stage 1の分析(学習データの音声指紋作成)を2025年6月に承諾したが、7月8日に同意を撤回。裁判官が介入して調整が行われ、合意が成立したのは2025年10月。分析が完了したのは2026年1月だ。

なお、Sunoは訴訟の当初答弁で「Sunoのモデルが学習に用いた数千万件の録音には、原告が権利を持つ楽曲が含まれていると推測される」と自ら認めている。

Udio訴訟(5月22日)

Sony Musicは別訴訟——ニューヨーク南部地区連邦地裁で係争中のUdio訴訟——にも、3万442件の著作権楽曲を追加申請する申請書を提出した。こちらも学習データへのアクセスが認められたディスカバリーの過程で特定されたものだ。


なぜこれが重要か

「AIは著作権楽曲で学習している」という主張はこれまで、業界側の「仮説」として語られてきた。SunoもUdioも2024年8月の答弁で著作権録音を学習に使ったことは認めているが、「フェアユースの範囲内」と主張してきた。

今回の動きが違うのは、音声指紋技術によって何が学習データに含まれていたかが、裁判記録に載る具体的な数字になったという点だ。「何百万曲」という表現が法廷で初めて検証可能な形に変わった。

Sunoが発見プロセスに抵抗を続け、裁判官の介入と合意形成に半年以上かかったことも記録に残った。訴訟側は「Sunoの遅延戦術が原因だ」と主張しており、今後の心証に影響しうる。

比較のための文脈として:

UMGはすでに2025年10月にUdio訴訟を和解。Warner Music Groupは2025年11月にSuno訴訟、Udio訴訟の双方を和解し、ライセンス契約に移行している。Udiоは現在、UMGおよびWMGとのライセンスを土台にした新アプリ「Starstruck」を2026年中に公開予定だ。

一方、UMGとSonyはSunoとのライセンス交渉が「行き詰まっている」と報道されており(MBW)、和解の気配はない。法廷での証拠開示が終わりに近づくほど、交渉のテーブルにのる数字は大きくなっていく。


論点・異なる見方

フェアユース問題はまだ決着していない

6万件の楽曲が学習データに含まれていたことと、それがフェアユースに当たるかどうかは、別の問いだ。Sunoは引き続きフェアユースの抗弁を主張しており、原告側も訴訟追加の申請において「まず著作権侵害のサマリー・ジャッジメントを先行させる」提案をしている。フェアユース判断が出るまでは、「数字が大きい=Sunoが負ける」とは言えない。

和解と訴訟の並走

Udió訴訟では、Sony以外の二大メジャー(UMGとWMG)はすでに和解し、ライセンス型の新プラットフォームを共同で立ち上げようとしている。これは「争いながら協議している」という奇妙な構図だ。Sonyが3万件超を追加申請するのと同じ週に、Udioは新アプリ名「Starstruck」を公開している。

訴訟と事業開発は並走している。

インディペンデントアーティストの問題

メジャーレーベルが6万件を申告できたのは、大規模な著作権登録データベースと専任チームを持つからだ。インディペンデントアーティストの楽曲が学習データに含まれていた可能性は否定されていないが、それを証明する手段も訴訟を起こすリソースも、個人には基本的にない。レーベルの訴訟が問うているのは「楽曲が使われたか否か」という問題の一部でしかない。


今後どう展開しそうか

焦点は二つ。

一つは、裁判官が申請された楽曲数の追加を認めるかどうか。Sunoは「事実上最初からやり直しになる」として反対しており、判断は現時点で出ていない。

もう一つはフェアユースの判断だ。原告側が提案している「まずフェアユースのサマリー・ジャッジメントを先行させる」ルートが認められれば、AI音楽の学習が法的にフェアユースかどうかという問いに、近い将来答えが出る可能性がある。その判断は、SunoやUdioだけでなく、著作権楽曲で学習したすべてのAI音楽モデルの扱いに影響しうる。

Udio訴訟については、文書提出の締め切りが2026年6月26日とされており、今後数週間でさらに証拠が整理されていく。


作り手・聴き手への示唆

AI音楽ツールを使って曲を作っている人にとって、この訴訟は「自分には関係ない話」ではある。SunoもUdioも引き続き使えるし、生成した音楽の責任は現状ツール側が負っている。

ただ一点、注目しておいてよいことがある。フェアユースの判断が出た場合、それはAI学習の「合法か否か」という問いへの回答になる。もし非合法との判断が出れば、学習済みモデルを使ったサービスの継続可能性そのものに影響する可能性がある——今すぐではないにしても。

ツールが使えることと、ツールの法的な土台が安定していることは、別の話だ。


ソース