Universal Music Group(UMG)は5月22日、TikTokとの新しいマルチイヤー・グローバルライセンス契約を発表した。

UMGの録音音源と出版カタログをTikTok上で引き続き利用可能にする内容で、さらに「アーティスト・ソングライターへのマーケティング・広告キャンペーン拡充」「eコマース連携」「アーティスト向けツールの提供」が盛り込まれた。

だが今回の発表で最も注目すべき文言は、ここだ。

「TikTokとUMGは協力して、プラットフォーム上の無許可のAI生成音楽を除去する」

これは前日(5月21日)に発表されたSpotify/UMGのAI合意——ファンがAIを使ってUMG楽曲のカバーやリミックスを制作できる有料サービス——とは正反対の方向性を持つ条項だ。

一方でAI音楽を「解禁」し、もう一方では「除去」を明文化する。この二つの動きが48時間以内に発表されたことに、UMGの現在地が見える。


なぜこれが重要か

TikTokとUMGの関係は、2024年初頭の対立から始まっている。UMGはその時、TikTokが「三つの重大な問題」——アーティスト・ソングライターへの適正報酬、AIに対する保護、ユーザーの安全——に応じないことを理由に、ライセンス契約の更新を一時拒否した。

2024年5月に暫定合意に至り、今回はその発展版となる。

注目すべきは「AIによる無許可音楽の除去」が単なる声明ではなく、契約条文として明記されたことだ。法的拘束力のある文書に書かれたことで、プラットフォーム側の実行責任が生じる。TikTokはすでに今年初め、配信サービスSoundOnでACRCloudの検知技術を導入しており、今回の契約はその流れを加速させるものだ。

UMGが48時間で二種類のAI条項を両面から押さえた動きは、偶然の産物ではない。AI音楽の活用ルールを「誰が最初に書くか」という競争において、レーベル側が主導権を保持しようとする戦略的な布石に見える。


論点・異なる見方

「AIによる無許可音楽の除去」の射程はどこか

「無許可のAI生成音楽(unauthorized AI-generated music)」という言葉は、対象が曖昧だ。許可なくアーティストの声や音楽スタイルを模倣したものだけを指すのか、それともAI生成音楽全般がデフォルトで「無許可」とみなされるのか。テキストだけでは判断できない。運用次第でAI音楽クリエイターへの影響範囲は大きく変わる。

「UMGが業界ルールを書いている」という見方

スーパーメジャーレーベルが個別交渉で積み上げたAI条項は、事実上の業界標準になっていく。インディペンデント・アーティストやインディーズレーベルが持っていない交渉力でルールが先に決まり、後からその枠組みに従うことを求められる可能性がある。これはAI音楽シーンにとって歓迎できる展開ではないという意見がある。

「除去」と「活用」を同時に進める矛盾をどう読むか

AI音楽リミックスは有料で解禁し、無許可AIはプラットフォームから排除する——これは矛盾ではなく、「許可ビジネスとして囲い込む」という一貫した戦略だと読む向きもある。逆に、誰が「許可」を持つかを大手レーベルが独占的に決める構造への批判もある。


今後どう展開しそうか

UMGとの契約パターンが先行モデルとなれば、他メジャー(Sony Music、Warner Music)も同様の条文を各プラットフォームとの契約に盛り込んでいくことが予想される。

また、TikTokの「AI除去」対応は技術的な精度に依存する。誤検知によって正規のAIミュージシャンの楽曲が削除されるリスクをどう管理するかは未解決の課題だ。

立法面では、今週再提出された「Protect Working Musicians Act」がAIトレーニングへのライセンシングを含む集団交渉権をインディー・アーティストに認めようとする動きがある。大手レーベルが契約でルールを作る一方、独立系クリエイターが法律でその力を補おうとする構図が、同じ週に並んで進んでいる。


作り手・聴き手への示唆

TikTokでAI生成音楽を投稿しているクリエイターにとって、「無許可」と判定されるリスクが今後高まる可能性がある。UMGカタログの楽曲を学習したモデルを使っていたり、既存アーティストのスタイルに近いコンテンツを出していたりする場合、その線引きが明確になるまでは注意が必要だろう。

一方、完全にオリジナルのAI生成楽曲を制作しているクリエイターへの直接的な影響は今のところ限定的だ。ただし、プラットフォームのアルゴリズムが誤検知を起こした場合の対応方法は、あらかじめ把握しておく価値がある。

聴き手の視点からは、大手レーベルとプラットフォームの間でAIのルールが形成されていく過程を、「誰のための規制か」という問いを持ちながら見ていくことが重要だと思う。作り手の保護とビジネスの囲い込みは、いつも同じ方向を向いているわけではない。


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