Udioが公開した「Starstruck」の詳細——ライセンス済みAI音楽で、ファンが曲を「作る」とはどういうことか
Udioが開発中の新アプリ「Starstruck」の全貌が明らかになった。Cover、Reimagine、Remix、Createの4モードで、ファンは参加アーティストの声やスタイルを使って曲を生成できる。著作権は権利者側が保持し、生成物はウォールドガーデンの外に出られない。「作り手になること」の定義が問われている。
5月22日、音楽業界向けニュースレター Water & Music が、Kobalt Music 主催の非公開ウェビナーで共有された内容を報告し、Udio が開発中の新サービス「Starstruck」の具体像が初めて明らかになった。
Starstruck は Udio がライセンス契約を結んだレーベルやパブリッシャーの楽曲・アーティストの声を使えるアプリで、年内にローンチ予定とされている。現在公開されている4つのモードは次の通りだ。
- Cover:あるアーティストのスタイルで別の楽曲をカバーする(例として「Charli XCX スタイルで Taylor Swift の曲をカバー」が挙げられた)
- Reimagine:歌詞はそのままに、楽曲全体を別のアレンジに書き換える
- Remix:既存の録音にジャンルやスタイルの変換を加える
- Create:ユーザーが自分で書いた歌詞を、選んだアーティストの声と組み合わせる。トピック・言語・スタイルに関するガードレールあり
著作権の扱いは明確だ。Starstruck で生成されたすべての録音の権利は、元のライツホルダーが保持する。ユーザーが歌詞を書き、アレンジを選んだとしても、著作権はアーティスト側のままだ。また、生成物はダウンロードできず、ストリーミングサービスへのアップロードも不可のウォールドガーデン型となる。
収益面では、ソングライターへの分配割合が「従来のストリーミングよりも大幅に多くなる」と説明されている。
なぜこれが重要か
この発表は偶然のタイミングではない。
前日の5月21日、Spotify と UMG は「ファンが AI でカバー・リミックスを作れるツール」の開発ライセンス契約を発表した(当誌既報)。同じ22日には UMG と TikTok が「無許可の AI 生成音楽をプラットフォームから排除する」条項を含む複数年の新ライセンス契約を更新した。
三つの動きが示しているのは一つのことだ——AI音楽を「野放し」から「ルールのある空間」へ引き戻そうとする流れが、業界全体で加速している。
Starstruck はその中で最も具体的な「ファン向けAI制作ツール」の設計図だ。Cover から Create まで4段階の関与レベルが用意されており、最も深い Create モードでは「自分の言葉をアーティストの声で歌わせる」という体験が可能になる。「聴き手が作り手になる」ことの商業実装として、現時点で最も踏み込んだ設計だと言える。
論点・異なる見方
「ウォールドガーデンは正しい選択だ」という見方
生成物をダウンロードも再配信もできない設計は、プラットフォームが数年来悩んできた「AI生成音楽の氾濫」問題を構造的に回避する。許可された空間の中で遊ぶモデルは、権利者側にとって最も受け入れやすいかたちだろう。ユーザーが何を作ってもプラットフォーム外には出られない、という前提が成立しているからこそ、Cover や Create のような踏み込んだ機能が許可されている、とも読める。
「作ったのに自分のものにならない」という摩擦
Create モードで自分の歌詞を書き、自分のアイデアで曲を作ったとしても、著作権はアーティスト側が持つ。これはユーザーにとって直感に反するかもしれない。「自分が作った」という感覚と「自分のものではない」という事実の間にある摩擦は、サービスの継続的な利用意欲にも影響しうる。ゲームのMODや二次創作と近い文脈で受け入れられるかどうかは、コミュニティの反応次第だ。
「Suno や既存AI音楽ツールとは別物」という見方
Suno や Udio の既存サービスは「ゼロから自分の曲を作る自由」を提供してきた。Starstruck は「既存アーティストのサウンドで遊ぶ」ための空間であり、創造の方向性が根本的に異なる。競合というより、異なる用途のツールとして並存するだろう。
今後どう展開しそうか
Kobalt はライセンスパートナーとして確認されているが、参加するアーティストが誰なのかはまだ公開されていない。どのアーティストがオプトインするかが、Starstruck の実際の価値を決定的に左右する。大物アーティストが参加しなければ、「AIでカバーできます」と言っても実質は限定的になる。
Spotify が発表した AI カバー・リミックスツールとの棲み分けも今後の焦点になる。Spotify は自社プラットフォーム内でのリミックスを指向し、Starstruck は Udio が直接提供するスタンドアロンアプリとして設計される模様だ。両者が補完的に機能するのか、ユーザーの時間を奪い合うのかは、サービスの具体的な使用感が出てくるまで判断できない。
作り手・聴き手への示唆
AI で音楽を作ることへの問いが変わってきている。かつては「AI音楽は音楽か」という問いだった。今は「誰の許可で、誰のために、何を作るのか」という問いになっている。
Starstruck の設計は、その問いに対する一つの回答を示している。権利者が許可した範囲でファンが創造する、という秩序だった空間だ。それを窮屈に感じるか、安全に感じるかは立場によって違う。
自分のオリジナル楽曲をゼロから作りたい AI クリエイターにとって、Starstruck は直接関係するツールではない。ただ、このような「ライセンス型」モデルが業界のスタンダードになっていくとすれば、「許可なく作る」ことへのプラットフォーム的・社会的な圧力は、じわじわと増していくかもしれない。
ソース
- Water & Music(Kobalt ウェビナー詳細報告): https://newsletter.waterandmusic.com/archive/a-scoop-on-udios-upcoming-app-starstruck/
- Music Ally: https://musically.com/2026/05/22/udio-reveals-details-of-its-licensed-ai-music-app-starstruck/
- Music Business Worldwide(UMG×TikTok 契約): https://www.musicbusinessworldwide.com/universal-music-group-and-tiktok-strike-new-multi-year-licensing-deal-with-expanded-ai-protections-for-artists-and-songwriters/