今週のAI音楽ニュースは「解禁」の話ばかりではなかった。

Spotify×UMGのAIリミックス解禁(5月21日)、Udioの新アプリ「Starstruck」の詳細公開(5月22日)と同じ数日間に、人間アーティストを守るための動きが三つ、ほぼ同時に起きていた。


何が起きたか

① No Fakes Act 改定版(5月21日)

2023年以来、2度国会での時間切れを経験してきた「No Fakes Act」が三度目の提出に臨んだ。マーシャ・ブラックバーン上院議員(共和)とクリス・クーンズ上院議員(民主)ら超党派議員が改定版を提出した。

今回の改定の目玉は「音楽ストリーミングへの対応」だ。本人の同意なく音声や肖像のAIレプリカを作ること・配信することを規制する本法に、ストリーミングプラットフォームへのフェイク楽曲配信も明確に射程に収めた。Spotify、YouTube、TikTok、3大メジャーレーベルが支持を表明している。

② Protect Working Musicians Act 再提出(5月22日)

2021年に初提出されたこの法案が、デボラ・ロス下院議員によって再び提出された。内容の核心は二つ——インディペンデントアーティストが集団でストリーミングサービスと交渉できる権利、そして集団でAI企業への楽曲ライセンスを拒否できる権利だ。

現行の競争法上、個人のインディアーティストはカルテル規制を回避するため個別にしか交渉できない。この法案はその制約を例外的に緩和しようとするもので、Artists Rights Alliance、AFM、Recording Academy、NMPAなど業界団体が幅広く支持を表明した。

③ MMF「デジタル・カッコウ」対策5点ガイド(5月22日)

英国の音楽マネージャー連盟(MMF)が、アーティストのストリーミングプロフィールにAI生成の偽楽曲が無断アップロードされる問題——MMFが「デジタル・カッコウ現象」と呼ぶもの——に対応するための実践ガイドを公開した。

「今年に入って、マネージャーからクライアントのプロフィールが乗っ取られたという報告を定期的に受けるようになった。ダムが決壊した感覚だ」とMMF CEOのアナベラ・コールドリックは述べている。

5点ガイドの内容は、アクセス権管理の強化、不正トラックの発生源特定、DSPへの対応要求方法、法的対処の選択肢など、現場での即実践を想定した実務的なものだ。


なぜこれが重要か

「AI音楽の解禁」と「AI音楽への防衛」が同じ週に並んだことは、現在の業界の地図を読む上で示唆的だ。

SpotifyとUMGが「同意・クレジット・補償」を掲げてAIリミックスを解禁したのと同じ週、別の場所では「同意なしに使われる」問題への対処がまだ追いついていない現実が浮かんでいる。ライセンス型の整備が進む大手の一方で、インディアーティストにはその恩恵が届きにくい。Protect Working Musicians Actが照準を当てているのはその非対称性だ。

No Fakes Actが「ストリーミングへのフェイク楽曲」を明示的に対象に加えたことも見逃せない。Apple Musicへのアップロードの3分の1がAI生成楽曲で、そのほとんどが聴かれていないというデータ(当誌既報)が示すように、プラットフォームはすでに「AI生成物の洪水」という問題を抱えている。法律が現実に追いつこうとしている。


論点・異なる見方

「法律は通らなければ意味がない」

No Fakes Actはこれで3度目の提出だ。Protect Working Musicians Actは5年前から提出と失効を繰り返している。業界からの支持は厚いが、米国の立法プロセスの現実を考えると、楽観はできない。「提出された」と「法律になった」の間には大きな距離がある。

「MMFのガイドは対症療法か、それとも出発点か」

5点ガイドが提供するのは、被害が起きたあとの対処方法だ。不正アップロードを事前に防ぐ仕組みはまだ各プラットフォームに委ねられており、Spotifyが3月に導入した「アーティストプロフィール保護」機能も完全ではない。「マネージャーが守り方を学ぶ」段階から「プラットフォームが構造的に防ぐ」段階への移行がいつ来るかが問われている。

「インディアーティストに交渉力を与えることへの反論」

Protect Working Musicians Actに対しては、「集団交渉の権利は独占禁止法の原則を崩す」という批判もある。DSPや大手からの反発が予想され、法案の通過を難しくする可能性がある。


今後どう展開しそうか

No Fakes Actが「3度目の正直」になるかどうかは、今回の改定で多くの関係者の支持を取り付けた点で、過去2回より条件が整っている。ただし法律として成立するには、まだ多くのハードルがある。

Protect Working Musicians Actはより対立を生みやすい内容で、長期戦になるとみるべきだろう。ただ、AIによる音楽学習・生成が一般化するにつれて、「インディアーティストが交渉テーブルに着けない」構造への問題提起は強まっていく可能性がある。

MMFのガイドが示す現場の問題意識は、法律や契約よりも速く動いている。「今この瞬間も偽楽曲がアップロードされている」という現実に対し、アーティストとマネージャーができることを整理する動きは、業界全体に広がっていくだろう。


作り手・聴き手への示唆

AI音楽を作っている人にとって、今週の「守る側」のニュースは遠い話に聞こえるかもしれない。自分の曲を作っているのに、なぜ規制の話を気にする必要があるのか、と。

ただ、No Fakes ActがAIカバーやAI音声のフェイク配信を規制対象にすることは、「誰でも自由に誰かの声でカバーを作れる」現状に変化をもたらす可能性がある。どこまでが許可された使い方で、どこからが法律に触れるかの境界線は、今まさに引かれているところだ。

AI音楽への熱狂とAI音楽への防衛が同時進行している今、「自分の作り方はどのゾーンにあるか」を意識する機会は増えていく。それは制限ではなく、より長く安定して作り続けるための地図になりうる。


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