韓国KOMCAがAI補助楽曲の著作権登録方針を撤回——政府からの圧力と「公開議論」要請
韓国音楽著作権協会(KOMCA)は、今夏発表したAI補助楽曲の著作権登録を認める新方針を撤回した。批判と韓国政府からの書簡を受けての判断で、制度設計は振り出しに戻った格好だ。
韓国音楽著作権協会(KOMCA)が、今年夏に発表したAI補助楽曲の著作権登録を認める新方針を撤回した。批判が高まるなか、韓国政府から「より広範な公開議論」を求める書簡が届いたことが引き金になったとみられる。
何が起きたか
KOMCAは今夏、作詞・作曲・編曲のいずれかに人間が実質的な役割を果たしたと認められる楽曲について、AI補助による制作であっても著作権登録を認める新方針を発表した。8月の本誌の報道でも取り上げた、アジア初の本格的な制度設計の試みだった。
しかし今回、この方針を撤回したとMusic Allyが報じた。韓国政府が「より広範な公開議論」の必要性を訴える書簡を送ったことが、決定的な要因だったとされる。
タイミングとしては、Sunoで生成された楽曲「Forest of the Heart」(アーティスト名:Joseon HipHop)が韓国の主要音楽ストリーミングサービスMelonのトップ100チャートに一時ランクインしたことが背景にある。人間が歌詞を書き、生成AIで楽曲を制作したこのトラックは、「チャートへのAI参入」として国内で注目を集めた。
なぜこれが重要か
KOMCAが一度発表した方針を政府の圧力で撤回したという事実は、AI音楽をめぐる制度設計が当事者団体の判断だけでは完結しないことを示している。
AI音楽が実際にチャートに入り始めている現状と、制度が追いつけていないという焦りが、今回の政府の介入を生んだとも読める。韓国は、世界的な影響力を持つK-POPシーンを抱えながら、AI音楽の扱いについては「議論継続中」という状態が続いている。
KOMCAと関連業界団体は現在、AI検出プログラムの技術パートナーを選定中で、政府・政策立案者との協議も続けているという。
論点
一方で、この撤回が何を意味するかについては複数の見方がある。
AI音楽制作者や新しい音楽形態に関心を持つ人々にとっては、制度が後退したように映るだろう。8月の方針は不完全ながらも「AI補助制作という現実」に向き合おうとするものだったからだ。
既存のアーティストや著作権関係者からすれば、性急な制度化よりも丁寧な議論を求めた結果として評価する面もある。「誰が何をもって人間の寄与とみなすか」という問いは、法的・文化的に非常に複雑だ。
また、政府が音楽著作権管理団体の意思決定に直接介入するという構図そのものへの問いもある。産業の自主規制と政府の監督のバランスをどう取るか、という論点は日本を含む各国でも共通する課題だ。
今後どう展開しそうか
KOMCAとしては、政府との協議と公開議論を経て改めて制度設計に臨むことになる。ただし、その「公開議論」がどのようなプロセスで、いつ結論を出すのかは現時点では不明だ。
AI検出技術の導入が先行し、検出・排除の側から議論が進む可能性もある。登録の条件を議論する前に、「何をAI生成とみなすか」の技術的基準を整備しようという流れだ。
作り手・聴き手への示唆
KOMCAの方針撤回は、制度の不在が長引く可能性を意味する。韓国でAI補助楽曲の著作権登録を行いたい制作者にとっては、グレーゾーンが続く状態だ。
ただ、これはKOMCA固有の話ではない。各国の著作権管理団体が「AI補助」と「AI生成」の線引きに苦しんでいる状況は同じで、どの国の制度も試行錯誤の最中にある。制度が固まるまでのあいだに、自分の制作プロセスの記録を残しておくことの価値は変わらない。