今日からARIAチャートが変わった。オーストラリアの公式音楽チャート運営機関ARIAは8月25日、完全にAIが生成した楽曲のチャート収録を禁止すると発表し、その変更が本日(8月31日)付のチャートから適用された。

ただ、その発表文の中にある一文を見落とした人は多いかもしれない。

「アンライセンスなAI出力を報酬するチャートは、われわれが代表する録音音楽の基盤そのものを損なうことになる」——ARIA CEO、Annabelle Herd

「完全AI生成だから除外する」のではない。「アンライセンスなAI出力だから除外する」のだ。この言葉は、今夏に起きていることの核心を示している。

「アンライセンス」という言葉が全てを繋ぐ

8月28日、ソニー・ミュージック・パブリッシングとワーナーチャペル・ミュージックがAnthropicを提訴した。これで3大メジャーの出版部門すべてがAnthropicを訴える状況になった。訴状はAnthropicの行為を「知的財産の盗用」と表現し、Anthropicが「Libgen」から数百万冊を無断でダウンロードしたとする社内メッセージの記録も引用している。

同時並行で、UMGとSonyはSunoがYouTubeの暗号化を「stream ripping」で回避して音声を収集したと主張する請求を追加した。Sunoは学習データ収集にYT-DLPを使用したことを自ら認めている。

この2件と、ARIA CEO の発言は、まったく同じ前提の上に立っている。

学習データが「アンライセンス」であることが、AI音楽の正当性を根底から問う。

チャートから除外するのは「AIが作ったから」ではなく、「著作権者の許諾を得ずに収集した音楽で学習したサービスが生成したものだから」——ARIAのロジックはそう読める。Herdが「アーティストの録音の上に構築されたサービスが大量生成した音楽」と表現したのも、偶然の言い回しではない。

チャートと法廷は同じ戦場の別の形

今夏、業界が展開した動きを整理すると、二つの軌道が見えてくる。

法廷の軌道: Anthropic(ソニー・UMG・ワーナーチャペル・BMG・ラウンドヒル)、Suno(UMG・Sony・GEMA他)、Udio(UMG・Sony他)に対する著作権訴訟群。いずれも焦点は「学習データの取得方法が合法か」と「学習行為がフェアユースか」だ。

インフラの軌道: ARIA(チャート除外)、Billboard(AI使用の明示)、Apple Music(「Made With AI」ラベル)、Luminate(AI生成楽曲の識別フレームワーク)、EU AI法(8月2日施行のオーディオラベリング義務)。いずれも「AI生成かどうか」を識別・記録する仕組みを作っている。

この二つは別々に動いているように見えて、実は同じ論理で動いている。法廷が「あの学習は違法だった」と確定すれば、インフラ側の「アンライセンスなAI出力は除外する」というルールに実体が生まれる。逆に、訴訟の決着を待たずにインフラが整備されれば、たとえ司法が「フェアユース」と判断しても、チャートへのアクセスやプラットフォームでの表示方法が変わっている。

法廷とチャート、どちらが先かに関わらず、「AI音楽の正当性はライセンスの有無に連動する」という構造が、今年の夏に固まりつつある。

まだ答えが出ていないこと

ただし、この構造は整理されてきた一方で、重要な問いは未解決のままだ。

誰が「アンライセンス」を判定するのか。 ARIAは自己申告と技術的検出を組み合わせるとするが、具体的な検出精度と運用コストは明かされていない。Luminateのフレームワークも、AI音楽企業との直接連携はまだ交渉中だ。

「ライセンス済み」は免罪符になるのか。 SunoはWMGやBMGとライセンス契約を結んでいる。では、それらのライセンスを持つSunoが生成した楽曲はARIAチャートに載れるのか。ARIAのルールは「使用した生成AIサービスが適切に認可されており合法である」ことを条件に挙げているが、「認可済み」の定義はまだ曖昧だ。

AIを一部使った作品はどう扱われるか。 ARIA、Billboard、Apple Musicのいずれも、「AI補助」と「AI生成」の境界線の判定を最終的には制作者側に委ねている。技術が進むほど、その境界線は引きにくくなる。

作り手・聴き手への示唆

AI音楽を作っている人にとって、今起きていることの含意は一つだ。「どのツールで作ったか」ではなく、「そのツールはライセンスを取得しているか」が問われる時代に入りつつある。

今のところ、SunoもUdioも商業利用に関するライセンスを更新しながら運営を続けている。しかし訴訟の結末次第では、使用しているプラットフォームの法的地位が、制作した楽曲の市場アクセスに直接影響することになりうる。

聴き手にとっては、「Made With AI」表示が普及するにつれ、「このAIはライセンスを持っているか」という問いが次に来る可能性がある。ラベルは最初のステップに過ぎない。


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