欧州初のAI音楽著作権判決——ミュンヘン地裁がGEMAの訴えを認め、Sunoに差止・収益開示を命じた
7月31日、ドイツ・ミュンヘン地方裁判所はAI音楽生成サービスSunoに対し、著作権侵害を認定する判決を下した。欧州で初めてAIモデルの学習データに著作権侵害責任を課したこの判決は、欧州全域のAI音楽サービスに影響を与える可能性がある。
7月31日、ドイツ・ミュンヘン地方裁判所第一審(Landgericht München I)は、ドイツの著作権管理団体GEMAがAI音楽生成サービスSunoを訴えた裁判(事件番号:42 O 763/25)で、GEMAの請求を認める判決を下した。
差止命令・収益開示・損害賠償請求権の確認という3点が認められた。欧州においてAI学習データの著作権侵害責任を認めた初の司法判断であり、その射程はドイツにとどまらない。
何が起きたか
争点になったのは6曲。GEMAの公式プレスリリースによると、「Atemlos durch die Nacht」(Kristina Bach)、「Rasputin」(Frank Farianほか)、「Big in Japan」と「Forever Young」(Alphaville)、「Mambo No. 5」、「Daddy Cool」(Frank Farian)だ。歌詞の侵害は争点から外されており、今回の判決は純粋に楽曲(メロディ・ハーモニー・リズム等)の著作権を扱っている。
裁判所が認定した事実は3つある。第一に、SunoはYouTubeからのstream-rippingによって上記6曲の音源を取得する際、YouTubeが実装する技術的保護措置「Rolling Cipher」を迂回した。第二に、これらの楽曲はSunoのモデル(v3.5とv4)にドイツ国内のサーバー上で「記憶」されていた。第三に、GEMAのチームがプロンプトに楽曲名・歌詞・音楽スタイルを入力するだけで、元の楽曲を再現性高く出力できることが確認された。
「楽曲の複雑さと長さを考慮すれば、偶然の一致によってこれほど正確に再現されることはありえない」と裁判所は述べている。
なぜこれが重要か
この判決の最大のポイントは、学習がアメリカ国内で行われていても、ドイツのユーザーにサービスを提供している限り、ドイツの著作権法が適用されると認定した点だ。「どこで学習させたか」ではなく「誰に提供しているか」で管轄が決まるという解釈は、欧州でサービスを展開するすべてのAI音楽会社に直接関係する。
また、Sunoが持ち出した「テキスト・データマイニング(TDM)例外」の主張も認められなかった。ドイツ著作権法第44b条が定めるTDM例外は、権利者が利用を明示的に許可している場合、あるいは非商業的利用に限られるとされており、商業的なAI音楽生成にはそもそも適用されないという判断だ。さらに、「EU AI法を遵守していれば著作権侵害の免責になる」というSunoの主張も退けられた。
責任の所在についても明確にされた。侵害の責任はAIシステムの提供者にあり、それを使ったエンドユーザーにはない。
論点・異なる見方
この判決が1審に過ぎないことは強調しておく必要がある。Sunoは控訴を検討していると伝えられており(Music Ally報道)、仮に控訴した場合はミュンヘン高等裁判所(Oberlandesgericht München)で審理される。
さらに、今年9月にはEU司法裁判所(CJEU)が「Like Company」事件で関連する判断を下す予定であり、その結論次第では今回の1審判決の解釈が揺らぐ可能性もある。Reed Smithの法律分析が指摘するように、「何も確定していない」段階だ。
一方でGEMAのアプローチを評価する声もある。今回の判決は、GEMAが2025年11月にOpenAIの歌詞生成をめぐって勝訴した判決に続く2勝目でもある。同一の裁判所、同一の判断枠組みが、異なる会社・異なる出力形式に対しても繰り返し適用されたことになる。
Sunoにとっては既に厳しい状況が続いている。米国ではRound HillほかレーベルがAnthropicとの共同訴訟を起こしており、BMGとのライセンス合意(8月25日発表)が唯一の和解の糸口として注目されている。
今後どう展開しそうか
短期的には、Sunoがドイツでのサービス継続のために何らかの対応—ライセンス交渉か、ドイツ向け機能の制限か—を迫られる可能性がある。GEMAの収益開示請求が通れば、損害額の算定に必要な情報が明らかになり、次の局面として実際の損害賠償訴訟に進む見通しだ。
中期的には、フランスのSACEM、英国のPRS for Musicなど他の欧州著作権管理団体が同様の訴訟に踏み切る根拠が整ったとも言える。今回の判決は先例として機能する。
作り手・聴き手への示唆
SunoやUdioを使って音楽を作っている人にとって、今回の判決が直接の影響を与えるわけではない——責任はサービス提供者にあると明示されたからだ。ただし、これらのサービスが今後ライセンスコストを抱えるとすれば、料金体系や機能に変化が生じる可能性はある。
より大きな問いは、「AIが音楽を学ぶとはどういうことか」という問いに初めて法的な答えが出たという点だ。コードやコード進行は著作権で守られない。しかしそのメロディの複雑な組み合わせを、プロンプト一つで再現できるほど記憶しているなら、それは「学習」ではなく「複製」だと裁判所は言っている。この線引きは、AI音楽の作り方そのものを問い直すことになるかもしれない。
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