ElevenLabsは8月25日、AI音楽生成プラットフォームElevenMusicに新機能「Composer」を追加した。楽曲のイントロ・Aメロ・サビなど、セクション単位で編集・再生成ができるエディタだ。

何が起きたか

Composerでは、一曲の中の特定のパートだけを選んで再生成することができる。サビのキーを変える、Aメロの歌詞だけ差し替える、ブリッジのテンポを落とすといった操作が、他のセクションに手を触れずに行える。ElevenLabsは「ひとつのセクションを再生成しても、残りのトラックはそのまま」と説明している。

素材の入れ方は複数ある。自分の歌詞を持ち込む、既存の音源をアップロードする、テキストプロンプトから始める、ゼロから組み立てる——いずれにも対応する。各セクションはスタイル・テンポ・エネルギー・楽器編成・長さをそれぞれ個別に調整でき、セクションを複製・並べ替え・拡張することもできる。生成は複数テイクが出力され、聴き比べてから選べる。

Composerは完全に新しい機能ではなく、5月26日リリースのMusic v2が持っていた「パート単位の再生成」能力を土台にしている。今回はそこに専用のエディタUIを重ねた、というのが正確な描写だ。

ソース:Music Business Worldwide(Aug 27, 2026)

なぜこれが重要か

AI音楽生成ツールの最初期は、プロンプトを入れると一曲丸ごと出てくる——それだけだった。良い曲が出ても「偶然の産物」であり、手直しの手段はほぼなかった。

その後、Sunoが2025年9月にブラウザ上のDAW「Suno Studio」を立ち上げ、今年8月13日にはMIDIサポートやステム分離を追加したStudio 2.0をリリースした。Googleは7月24日、Flow MusicのSpaces機能にセクション差し替えとトラック拡張を追加している。ElevenLabsのComposerはこの流れの中に位置づけられる。

ポイントは「意図的に作れるようになってきた」という変化だ。偶然出てきた出力の中からいいものを探す時代から、構造を決めて何度も直して仕上げる時代へ。AI音楽制作のワークフローが、既存の音楽制作に近づいてきている。

論点・異なる見方

この三社の競争には前提の差がある。ElevenLabsはMerlin・Kobalt・Believeとライセンス契約を結んでいる。対してSunoとUdioは無許諾でサービスを開始し、レーベルから訴えられた。UdioはUMG・WMGと和解済みだが、SonyとはまだSonyが二件目の訴訟を続けている。SunoはWMGと和解、8月12日にBMGとライセンス、ただしUMG・Sonyとの訴訟は継続中だ。

機能が似通ってくる中で、この法的な立場の差はどう効いてくるか。ライセンス済みのElevenLabsは企業向けサービスや他プラットフォームへの展開がしやすいポジションにある。Sunoは訴訟を抱えながらもIPO準備に入っているとされる。

ただし、ユーザー規模の話をするとSunoは有料会員200万人・ARR3億ドル(2月時点)。ElevenLabsはElevenMusic単体の数字を公開していない。会社全体のARRは5億ドルを超えているが、その大半は音声エージェント向けの法人需要とされる。

今後どう展開しそうか

ElevenMusicは今年に入ってMixes(6月)、Tools(7月)、Vocals/References(7月)、AIサウンドライブラリ(8月)、そして今回のComposerと、月単位で機能を出し続けている。

AI音楽制作のUI競争は、どのツールが「作りやすいか」という方向へ向かいつつある。機能の多さよりも、ワークフローとして成立しているかどうかが問われてくる段階だ。Suno・ElevenLabs・Googleの三者が本格的なエディタを持つようになった今、次の差別化はコラボレーション、商業利用の制度設計、あるいはモバイル体験あたりに出てくるかもしれない。

作り手への示唆

Composerが面白いのは、「全部うまくいかなくてもやり直せる」という感覚をAI音楽に持ち込んでいる点だ。Aメロが気に入らなければAメロだけ直す。それだけのことが、少し前までは難しかった。

今のAI音楽ツールを触り始めるなら、丸ごと出力して選ぶよりも、セクションを意識しながら組み立てる使い方に慣れておくと、Composerのような機能が活きやすい。全部AIに任せるのではなく、どこを自分でコントロールしたいかを最初に決めることが、これからのAI音楽制作の作法になってくるかもしれない。