UMG(ユニバーサル ミュージック グループ)とSony Music Entertainmentが米連邦地裁に提起しているSuno訴訟に、大きな追加請求が認められた。Sunoが学習データを集める過程でYouTubeの暗号化技術を回避して音源をダウンロードしていたという新たな主張が、著作権法とは別の法律——デジタルミレニアム著作権法(DMCA)第1201条——に基づいて訴状に追加されることになった。

何が起きたか

8月25日付で提出された修正訴状によると、Sunoは「ローリング暗号(rolling cipher)」と呼ばれるYouTubeの暗号化技術を、オープンソースツール「YT-DL」および「YT-DLP」を使って回避し、音声ファイルを違法にダウンロードしたとされる。

根拠となったのはSuno自身の供述だ。2025年5月の訴訟手続きの中でSunoは、YouTubeから音声ファイルをダウンロードしたこと、そのためにこれらのオープンソースツールを使用したことを認めている。

マサチューセッツ州連邦地裁のF. Dennis Saylor IV判事は8月18日、DMCA第1201条(a)に基づく請求の追加を認める命令を出した。ただし同日、レーベル側が求めていた別の申し立て——Audible Magicの音声フィンガープリントで特定した61,026件の追加録音を訴訟に加える申請——は却下している。

現在訴訟に含まれる楽曲数は560件のままで、理論上の最大損害賠償額は約8,400万ドル。却下された61,026件が加われば90億ドル超になる計算だった。修正訴状は1楽曲あたり最大15万ドルの賠償と、暗号化回避1件あたり最大2,500ドルを求めている。

ソース: Music Business Worldwide

なぜこれが重要か

著作権侵害(コピーライト)の訴訟とDMCAの訴訟は、論点がまったく異なる。

著作権訴訟の核心は「フェアユース」だ。AIによる学習データの利用が公正な利用に当たるかどうかという問いは、AI産業全体にとって最重要の法的問題であり続けている。Saylor判事自身、9月30日に終了する事実認定のあとは、このフェアユース問題を中心に審理を進める方針を示している。

一方、DMCA第1201条の訴訟で問われるのは「侵害」ではなく「回避」だ。YouTubeがコンテンツへのアクセスを技術的に制限しているかどうか、YT-DLPがその制限を実際に回避しているかどうかという事実関係が争点になる。Sunoの弁護団は「YouTubeの動画は誰でもアクセスできるのだから、技術的保護手段の回避には当たらない」と主張しているが、判事はその解釈を「まだ確定的ではない」として請求の追加を認めた。

つまりSunoは、フェアユースという主戦場とは別に、暗号化回避という新たな戦線を抱えることになった。

論点・異なる見方

法的な争点は「YouTubeの rolling cipher がDMCA第1201条で言う『技術的保護手段』に当たるか」だ。Saylor判事は現段階では「認められる可能性がある」と判断しているが、その結論を出すには双方から事実関係をもっと聴く必要があると述べている。

業界関係者の視点からすると、この訴訟は「AIツールがインターネット上の音楽をどのように収集してきたか」という問いを改めて浮き彫りにする。YouTubeからの大規模ダウンロードは、AI研究コミュニティでは長らく行われてきた慣行でもある。YT-DLPはオープンソースで広く使われているツールであり、今回の訴訟はSunoに限らず他のAI音楽・音声モデルの開発者にも波紋を広げる可能性がある。

一方、Suno側からすれば、自社が認めたのはツールの使用であり、著作権者のコンテンツを意図的に「盗んだ」という表現には異論があるだろう。これは解釈と用語の問題でもある。

今後どう展開しそうか

事実認定は9月30日に終了する。その後、双方はフェアユースを争点とする略式判決申立を提出する見通しだ。この判断がどちらに転ぶかが、AI音楽産業における「許諾なし学習」の合法性を左右する分水嶺になりうる。

また、Saylor判事は同日付の別の命令で、カントリーアーティストのTony Justiceが提起したクラスアクション訴訟でも同様のstream ripping請求を退けないことを決定した。DMCA請求は複数の訴訟で同時進行することになり、判断の一貫性が問われる展開になりそうだ。

レーベル側が申請を見送られた61,026件の楽曲については、別訴訟として提起できるとSaylor判事は示唆しており、実際に提訴されれば金額的インパクトは桁違いになる。

作り手・聴き手への示唆

このニュースが問い直しているのは、AI音楽ツールが「どこから音楽を学んだか」という、ユーザーには見えにくい問題だ。

学習データの出所は、生成されたコンテンツの権利関係に直結する。現時点でSunoの楽曲を使うことは法律上の問題ではないとされているが(訴訟の焦点は出力物ではなく学習過程にある)、この訴訟の結末次第では、使用条件や権利の解釈が変わる可能性もある。

Sunoが6月に40億ドル超の評価額で4億ドル以上を調達したことを考えると、同社は長期戦を戦う体力を持っている。だが、その訴訟の過程で明らかになる「学習の実態」は、AI音楽全体への信頼にも影響しうる。