メジャーレーベルがAnthropicを提訴し、チャート委員会がAI楽曲の除外ルールを整備する——そうした「上からの対応」が続くなか、より地味で、より個人的な抵抗がEDMシーンの底で起きていた。The Vergeが8月29日に公開した記事が、その実態を伝えている。

何が起きたか

26歳のEDMプロデューサー、Max "H4RRIS" Harrisはここ数ヶ月、AI生成だと疑われる楽曲を公開で「糾弾」する動画を投稿し続けている。ターゲットは、生成AIで作った楽曲を自分の作品として売り出していると彼が信じるアーティストたちだ。

イタリア出身のターンテーブリスト/プロデューサー、Nihil Young(39歳)も同様の活動をThreads上で展開している。Youngの投稿がHarrisの動画制作のきっかけになったという。

二人が問題視するのは主にSunoで生成された楽曲で、H4RRISはその特徴をこう説明する。「声や旋律の要素が同じタイミングで途切れる。高周波のヒス音が楽曲全体に乗っている。人間の作曲家なら選ばないような編集上の判断が随所に出る」。制作環境はAbleton Live、Novation Launchkey、アナログシンセ、Serum、Kontaktなど——自身の制作プロセスと対比する形で、AI楽曲の「選択のなさ」を指摘する。

YoungはSony Music、Warner、Universalでミキシング・マスタリングの仕事をしてきたベテランだ。彼は言う。「これらの楽曲はSunoの音だ。マドンナのような大物アーティストの楽曲をそのまま食わせて、リミックスさせているだけだ。あなたのカタログに対しても同じことができる」。

なぜこれが重要か

注目すべきは、この活動が法的手段でも業界ロビー活動でもない点だ。現場のミュージシャンが自分の耳と経験を武器に、プラットフォームや司法の動きを待たずに行動している。

Youngにとってこれは生存の問題でもある。「AIが広まり始めてから、クライアントの多くを失った」と彼は語る。AI音楽制作・消費の構造変化が、業界の周縁部で働くミュージシャンやエンジニアから仕事を奪っているという実感が、この活動の背後にある。

論点・異なる見方

もっとも、この種の「糾弾」には難しさがある。

H4RRISが名指しするMANSAの「Midnight on My Mind」やDanny & Ian Asherの「Take Me (To The Moon)」について、本人たちはAI使用を公式に認めていない。「似ている」と「AI生成だ」の間には証明の壁がある。疑惑の提示はできても、確定的な証拠を示すことは難しく、誤認定のリスクも消えない。

Youngはこうした活動を続けた後、ハッキングの試みや大規模なオンラインハラスメントを受けたと語る。幼い娘を持つ彼は今、公開での糾弾から一時的に距離を置いている。声を上げることのコストが、個人のミュージシャンにとっていかに大きいかを示している。

一方、H4RRISの言葉——「AIは創造的な決断を省いてしまう」——は、AI音楽をめぐる本質的な問いに触れている。ただし、「AIを使った試行錯誤にも意図や選択はある」という反論も成立する。問われるべきは「AI使用の有無」ではなく「開示の欠如」かもしれない。

今後どう展開しそうか

Sunuがコピーライト検出機能を強化し、EUのAI Act がオーディオラベリングを義務付け、各国チャート委員会がAI楽曲の除外ルールを整える——こうした外部環境の変化が進めば、「AI偽装」の余地は狭まっていくだろう。

しかしプラットフォームや法規制が追いつく前の空白期間を埋めているのが、H4RRISやNihil Youngのような個人だ。彼らの活動は体系的ではないし、誤認定のリスクもある。それでも、「誰かが見ている」という空気をEDMコミュニティに生み出している点では機能している。

作り手・聴き手への示唆

AI音楽の検出技術は進化している。SunoのコピーライトスキャンもTrebloの自社認定ツールも、「隠せる」という前提を少しずつ崩していく。長期的に見れば、開示を選ばない戦略はリスクを高める一方になる。

聴き手の側からすると、EDMのような技術集約的なジャンルでも、「誰が何を使ってどう作ったか」という問いが意味を持ち始めている。H4RRISが人間の制作について語るとき——「何百もの創造的な決断が積み重なって一つの曲になる」——その言葉は、AI生成との比較があってこそ輪郭がはっきりする。

ソース: Musicians-turned-detectives are hunting for AI grifters — The Verge (Charles Pulliam-Moore, 2026-08-29)