ソニーとワーナーチャペルもAnthropicを提訴——「著作権侵害史上最大級」、CEOを個人被告に
ソニー・ミュージック・パブリッシングとワーナーチャペル・ミュージックが2026年8月28日、AnthropicとCEOのダリオ・アモダイら個人を被告としてカリフォルニア北部地裁に提訴。これで3大メジャーすべての出版部門がAnthropicを訴える状況になった。
ソニー・ミュージック・パブリッシング(SMP)とワーナーチャペル・ミュージック(WCM)が2026年8月28日、AnthropicとそのCEOダリオ・アモダイ、共同創業者ベンジャミン・マンを被告として、カリフォルニア州北部地区連邦地裁に提訴した。Music Business Worldwideが訴状全文を入手している。
訴状はAnthropicによる学習データの収集を「歴史上最大かつ最も露骨な知的財産の盗用の一つ」と表現した。
何が起きたか
今回の提訴で、ユニバーサル、ソニー、ワーナーという3大メジャーのいずれの出版部門もAnthropicを訴える状況が整った。
これまでの経緯を整理すると、ユニバーサル・ミュージック・パブリッシンググループ(UMPG)、コンコード、ABKCOが2023年10月にナッシュビルで約500曲を対象に最初の訴訟を起こし(後にカリフォルニアへ移送)、2026年1月には同じ原告が2万曲超・30億ドル超を求める第2弾を提起。BMGが2026年3月に493曲で第3弾、ラウンドヒル・ミュージックが2026年8月17日に第4弾を起こしていた。SMPとWCMの提訴は5件目にあたる。
SMPとWCMが主張する侵害作品数は「数万曲」とされており、1作品あたり最大15万ドルの法定損害賠償と著作権管理情報の削除・改ざんに対して1件あたり最大2万5000ドルの賠償を求めている。理論上の損害額は数十億ドルに達する規模だ。
訴状が具体例として挙げている楽曲には「Ain't No Mountain High Enough」「All I Want for Christmas is You」「Eye of the Tiger」「Livin' On a Prayer」「September」「Hallelujah」「Uptown Funk」「Paper Rings」(テイラー・スウィフト)が含まれる。
なぜこれが重要か
今回の訴状が注目に値するのは、Anthropicの創業者個人が被告に含まれた点と、侵害行為の具体的な経緯が詳細に記されている点だ。
訴状はAnthropicの書籍著者との訴訟(Bartz v. Anthropic)で開示された社内資料を引用している。それによれば、マンは2021年6月にBitTorrentを使ってLibrary Genesis(LibGen)から少なくとも500万冊の海賊版書籍をダウンロードしており、Anthropicの従業員も2022年7月にPirate Library Mirrorからさらに200万冊をダウンロードしたとされる。訴状はマン自身が「LibGenはかなりやばい(sketchy AF)」と記したとされる社内メッセージや、Anthropicの内部チームが「著作権の明らかな侵害」と認識していたとされる記述も引いている。
また、歌詞についてはMusixMatchやLyricFindといったライセンス済みサイトからのスクレイピング、古本のスキャン、CommonCrawl・The Pile・Books3の利用も主張に含まれる。さらに「以前の訴訟後に追加されたガードレールは、単純な『再プロンプト』で容易に回避できる」とも指摘されている。
これに加えて訴状は、Anthropicが書籍著者との訴訟で2025年9月に15億ドルの和解をすでに成立させていることを指摘しつつ、「それでもビジネスモデルが変わっていない」と批判する。ForbesによるAnthropicの企業評価額として訴状内で言及されているのは2兆ドルで、10月のIPOが予測されているという。
論点と異なる見方
SMPとWCMは訴状の中で「責任あるAI開発」への言及も盛り込み、「音楽出版社はAI技術のポテンシャルを認識しており、自社楽曲のAI利用を認めるライセンスも締結してきた」と述べている。純粋な反AIではなく、ライセンスなしの利用に反対するという立場を示す形だ。
一方でAnthropicは自社を「倫理的なAI企業」と位置づけてきた。訴状はその点を正面から突き、「そのブランドイメージと行動が矛盾している」と主張する。
また、今回の訴訟が出版社と制作側のAIレーベルとの交渉にどう影響するかは不透明だ。すでに業界では、Sunoへの楽曲ライセンス(WMGやBMG)のように「訴えながら交渉する」という動きが並行して起きており、今後も訴訟と商業契約が同時進行する状況は続きそうだ。
今後の展開
ANthropicにとっては、複数の訴訟が同一地裁で並走する可能性が高まっている。UMPG/コンコード案件はすでにカリフォルニア北部地裁に移送されており、今回のSMP/WCM案件も同地裁に提起された。案件の統合や調整審理の可能性もある。
10月と報じられているIPOとの関係も注目点だ。訴訟の規模と公開性が投資家評価に影響するかどうかは現時点では断言できないが、ディスクロージャー上の重要事項として扱われることは確実だろう。
作り手・聴き手への示唆
「Claudeなどの汎用AIが音楽出版物をどう扱っているか」という問いは、今後の学習データ透明性の議論と直結する。AI音楽ツールの利用者にとっては今のところ直接的な影響は少ないが、モデルのトレーニングに使われた素材の開示を求める動きが強まれば、ツール選択の判断基準にもなりえる。
「倫理的なAI開発とは何か」は、技術の問題だけでなく、著作権者との関係性をどう構築するかという問いとセットになりつつある。
ソース: Music Business Worldwide「Now Sony Music Publishing and Warner Chappell sue Anthropic in multi-billion dollar lawsuit」(2026年8月29日)