Grimesが新アルバム『Psy Opera』のリードシングル「Accelerando」を公開した。2020年の『Miss Anthropocene』以来6年ぶりとなる新作で、自身のレーベルNazgul Recording LLCからリリースされる(コロンビアとは別れている)。

何が起きたか

10月9日、Grimesは「Accelerando」を公開した。タイトルはCharles Strossの2005年のSF小説への参照とも読める。プレスリリースによると、アルバムは「AI論争から不正な戦争、元交際相手、ルックスマキシング(外見最大化主義)、宗教の重要性まで——ポップミュージックからの休暇中に歴史の証人として目撃したすべて」を扱う、とされている。

曲のリリックには「American lobotomy ya a a a / Accelerando / Better than a Van Gogh?」といったフレーズが並ぶ。曲調はGrimesらしい実験的な電子音楽で、アルバムへの期待は「predictably bizarre(予想通りに奇妙)」とPitchforkは評した。

アルバムには「The Light Ages」「Eve Is Online」といった曲が収録される予定で、Grimesはすでにファン向けInstagramチャンネル「Eve Is Online」を開設している。またPsy Operaのトレーラーでは、ヨハネの黙示録のAIによる解釈として「はじめにことばがあった。そしてことばは神であった。そして人は自分のイメージで神を作った」という改変テキストが読まれる。

なぜこれが重要か

AI音楽の議論において、Grimesはずっと特異な存在だった。2023年には自分の声を使ったAI生成曲に対して50%のロイヤルティを提供すると宣言し、2024年にはPBSの番組でAIを「ミュージシャンにとってのチャンス」と呼んだ。「みんなが同じツールでプロクオリティのものを作れるようになると、本当の才能が浮かび上がる」というのが彼女の主張だ。

ただし今回は少し違う。ツールへの言及ではなく、AIそのものをテーマにしたアルバムを作った。Grimesは音楽をAIで作るだけでなく、AI時代という文脈の中に自分を位置づけることで何かを言おうとしている。

論点

問いは複数ある。まず、AIをテーマにするとはどういうことか。アルバムタイトル「Psy Opera(心理/操作オペラ)」は意図的に曖昧で、AIへの熱狂なのか批判なのか、あるいはその両方なのかは曲を聴かないとわからない。「Accelerando(加速)」というタイトルそのものが、AIによる加速主義への批評にも読める。

また、「AIテーマ」というラベルが商業的な文脈でどう機能するかも気になる。Grimesほどの文化的な信頼残高があれば、同じ試みが新人アーティストにとっては「AI便乗」と見られるリスクがある。コンテンツとしてのAIと、ツールとしてのAIは、受け取られ方が違う。

今後どう展開しそうか

リリース日はまだ発表されていない。ただ、すでにリードシングルを出し、トレーラーも公開したことを考えると、年内のリリースに向けてのキャンペーンが始まったと見るのが自然だ。

アルバムの内容次第で、Grimesはまた別の文化的議論の震源地になる可能性がある。

作り手・聴き手への示唆

GrimesがAIをテーマにする姿勢は参考になるが、そのまま真似できる立場は誰にでもあるわけではない。大事なのは「AIで作った」という事実より、「何を言おうとしているか」を先に持つことだろう。道具の宣言よりも、問いの立て方の方が、長く残る。


Source: Pitchfork