イタリア競争市場消費者庁(AGCM)は2026年10月6日、AI音楽生成サービスを提供する米国企業Suno Inc.に対し、利用規約(Terms of Service)に関する正式調査を開始したと発表した。

何が起きたか

AGCMは、SunoのToSが「消費者保護法典第33条に基づく不公正な条項に該当する可能性がある」として調査を開始した。具体的に問題視されているのは以下の点だ。

著作権条項:ユーザーがSunoに付与するライセンスの範囲が「包括的で曖昧」とされ、さらにユーザーに著作者人格権の放棄を求める条項がイタリア著作権法(Law 633/1941、第20条以下)に抵触する可能性があるとした。

一方的な契約変更:Sunoがサービス内容・価格を理由を示さず一方的に変更できる広汎な裁量権を持つ点。

アカウント停止:理由・通知なしにいつでもアカウントを停止・削除できる条項。

紛争解決条項:紛争を米国でのバインディング仲裁に限定し、クラスアクション放棄・マサチューセッツ州の専属管轄を定めている点。欧州の消費者にとって権利行使の障壁となりうる。

AGCMは今後数週間以内に当局ウェブサイトで公開協議を開始し、業界団体・商工会議所・消費者団体の意見を募る予定だ。制裁金は5,000ユーロから最大1,000万ユーロの範囲。

なお、AGCMが審査したToSのバージョンは明示されていないが、Sunoの現行ToSは2026年9月3日付で発効したもので、ユーザーコンテンツおよびVoice Modelに関するすべての著作者人格権・精神的権利を「取消不能の形で放棄する」と明記している。

なぜこれが重要か

著作者人格権(moral rights)は欧州大陸法体系における著作権の根幹をなす概念であり、英米法の財産権的著作権とは異なる。作品の同一性を守る権利・氏名表示権などを含み、多くの欧州諸国では契約によって放棄させることが法的に難しいか不可能とされている。

Sunoのような米国企業が「米国法準拠・米国仲裁」という設計のToSを世界中のユーザーに適用しようとすることの無理が、欧州の規制当局によって初めて正面から問われた格好だ。

欧州委員会はEU AI Actの施行を進めており、消費者保護の観点からAIサービスのToSへの目線は今後さらに厳しくなると見られる。今回のAGCM調査はその先陣といえる。

論点・異なる見方

Sunoにとって今回の調査は、著作権侵害訴訟(米国で複数の大手レーベルが提訴中)とは別軸の問題だ。訴訟は学習データの使用が焦点だが、今回はユーザーとの契約関係が問われている。

ユーザー側から見ると、争点は二重構造になっている。一方では「自分が作った音楽に対してAI企業が永続的・取消不能のライセンスを得る」構造への疑問があり、もう一方では「著作者人格権の放棄を求めることはアーティストのアイデンティティを否定しうる」という批判がある。

AI音楽ツールを制作に組み込んでいるアーティストにとっては、自分の作ったものへの権利がToSの文言によって実質的に消えうる可能性を意識する必要がある。

一方でSunoとしては、サービス運営上の技術的必要性(AIの改善・学習など)のためにライセンスの幅広さを主張するだろう。問題は「幅広さ」の範囲と透明性が欧州の法的基準を満たしているかどうかだ。

今後どう展開しそうか

公開協議を経てAGCMが調査を継続すれば、Sunoに対しToSの改定を求める勧告または制裁が課される可能性がある。同様の問題意識は他の欧州規制当局にも共有される可能性があり、EU全域でのAI音楽サービスに対する規制的圧力が高まることが考えられる。

Sunoがイタリア市場向けにToSを修正するか、あるいは欧州全体での対応に乗り出すかが注目点だ。大手プラットフォームが地域ごとにToSを使い分ける事例は珍しくないが、AI生成コンテンツの著作権処理をめぐる前例はまだ少ない。

作り手・聴き手への示唆

Sunoをはじめとするai音楽ツールを使ってコンテンツを作り・投稿・販売しているクリエイターは、自分が同意しているToSの著作権条項を一度確認してみる価値がある。特に欧州に拠点を置く、あるいは欧州向けにコンテンツを展開しているアーティストにとって、著作者人格権放棄条項が実際に何を意味するかは自明ではない。

今回の調査はSunoを対象としているが、類似のToSを持つAIサービスへの波及も十分ありうる。規制の輪郭が定まりつつある中、ツールを選ぶ目線のひとつに「契約条件のフェアさ」が入り始めている。


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