米連邦第三巡回区控訴裁判所(フィラデルフィア)は9月29日、Thomson Reuters対Ross Intelligence訴訟において、AIサービスが著作権保護コンテンツを学習データとして無断使用することは「フェアユース(公正利用)に当たらない」とする判断を下した。米連邦控訴裁判所がAI学習データのフェアユース抗弁を正面から退けた初めての判決として、音楽業界に広がる一連のAI著作権訴訟との関係で注目が集まっている。

何が起きたか

問題の発端は2020年にさかのぼる。Thomson Reutersが運営する法律調査プラットフォームWestlawの編集要約(headnotes)を使い、競合するAI法律検索ツールを開発したスタートアップRoss Intelligence(2021年廃業)に対し、Thomson Reutersが著作権侵害で提訴した。

2025年2月、デラウェア連邦地裁のStephanos Bibas判事がThomson Reutersへの略式判決を下し、Ross側のフェアユース主張を退けた。Ross側はこれを不服として控訴していたが、今回の第三巡回区の判断はこれを支持するもので、32ページの意見書は「先例拘束力あり(precedential)」と明記されている。同巡回区内の地裁は今後この基準に従わなければならない。

意見書はTamika Montgomery-Reeves判事が執筆し、同月30日に(一部修正を経て)公開された。

なぜ音楽業界にとって重要か

訴訟の当事者は法律テック企業だが、RIAA(全米レコード協会)とNMPA(全米音楽出版社協会)が連名で法廷意見書(amicus brief)を提出し、音楽AI訴訟との類似性を強調した。

その中でRIAAとNMPAは、Sunoが訴訟の答弁書の中で「インターネット上で合理的な品質で利用可能な音楽ファイルを基本的にすべて学習データに使用した」と認めた事実を引用。また、Deezerが2026年6月に1日あたり約9万件(全新規アップロードの50%超)のAI生成楽曲を受け取っていると報告したことにも言及し、AI生成音楽が人間アーティストのロイヤリティプールを侵食している実態を訴えた。

意見書の核心は次の一文に集約される。

「法律調査ツールとAI生成音楽という事実関係の文脈は異なるものの、下級裁判所の判断は重要な先例を打ち立てた——著作権作品と競合・代替する商業AIモデルを訓練するために著作権作品を学習させることは、いかなる場合もフェアユースにはなりえない」

音楽プロダクション分野でも、ディズニー、パラマウント、ソニー・ピクチャーズ、ユニバーサル・シティ・スタジオ、ワーナー・ブラザーズが連名でThomson Reuters支持の意見書を提出しており、コンテンツ産業全体の協調が際立つ。

論点——この判決はSunoやUdioの訴訟に直接影響するか

慎重に読む必要がある。Bibas判事自身が2025年の判決で「現時点では非生成AIのみが争点だ」と明記しており、今回の第三巡回区もその枠組みを引き継いでいる。Rossのツールは既存の判例文書を検索・返却するものであり、新しいコンテンツを生成するSunoやUdioとは構造が異なる。

ライセンス市場の存在をめぐる議論も続く。RIAAとNMPAは、UMGやWMGがStability AIやUdioと締結したライセンス契約、KLAYの三大メジャーとの契約、KobaltとElevenLabsの合意を「ライセンス市場が既に成立している証拠」として裁判所に示した。生成AIの学習データについても対価を支払う慣行が形成されつつあるとすれば、フェアユースの「市場への影響」分析にとっては不利な事実となる。

一方で今回の判決を最も広く解釈する立場は、「競合・代替するAIを学習させるための無断コピーは常にフェアユースではない」という命題それ自体が先例になった点を重視する。Sunoの代理人がマサチューセッツ連邦地裁でフェアユースをめぐる略式判決申立を準備する中(期限は2027年6月22日)、この判決は手続き上の重みを増す。

現状では、Udioxは既にUMG・WMG・Merlin・Kobalt・Believe・NMPAとそれぞれ和解・ライセンス契約を締結。SunoはWMG・BMG・Believe・TuneCore と合意している。しかしSony MusicはSunoとの和解に至っておらず、UMGはSunoのv6モデルを対象に9月18日に二度目の提訴を行った。

今後の展開

先例拘束力のある控訴裁判決の存在は、AI側の弁護士が「訴訟コストより和解の方が得」と計算するインセンティブを強める。現にUdioが次々と和解・ライセンスに転じた流れはその反映ともいえる。

ただし最終的な決着には、連邦最高裁が生成AIのフェアユース問題に正面から向き合うことが必要かもしれない。今回の第三巡回区の判断は非生成AIを対象としており、生成AIへの適用を断定するには別の裁判事例が必要だ。法曹関係者の間では、Sunoとのフェアユース略式判決が次の正念場になるとの見方が広がっている。

作り手・聴き手への示唆

AI音楽ツールを使っている人にとって、すぐに何かが変わるわけではない。ただ、この判決が確定的に示したのは「ライセンスなしの大規模学習は法的に脆弱だ」という事実であり、そのコストは最終的にプラットフォームの経営判断に反映される。

ライセンス契約を積み上げてきたUdioや、WMGなどと手を打ったSunoの動きは、この訴訟リスクを織り込んだ戦略転換と見ることができる。licensed AIとunlicensed AIの間の溝は、今回の判決でさらに深まった。


Source: Music Business Worldwide