ElevenLabs、評価額$22Bでテンダーオファー完了——Sunoの4倍、音楽業界の投資家も参入
ElevenLabsが9月30日、$300Mの従業員テンダーオファーを$22B評価額で完了。2月のシリーズD($11B)から半年で倍増。GIC(UMG株主)やEQT(Believe共同オーナー)が新規参加し、AI音楽プレイヤーに音楽業界マネーが流入する構図が鮮明になった。
ElevenLabsが9月30日、3億ドルの従業員テンダーオファーを220億ドル(約3.2兆円)の評価額で完了したと発表した。2026年2月のシリーズDで達成した110億ドル評価額からわずか半年での倍増となる。
何が起きたか
テンダーオファーはファンディングラウンドとは異なる。会社に資金が入るのではなく、既存の従業員株主が投資家に株式を売却するかたちで、得られた資金は売却した従業員に渡る。ElevenLabsはこれで2025年9月以降3度目のテンダーを実施したことになる($100M・$6.6B評価 → $100M・$11B評価 → 今回$300M・$22B評価)。
今回のテンダーを主導したのはWellingtonとT. Rowe Price。新規参加者の顔ぶれが目を引く。GICはシンガポール政府系ファンドで、Universal Music Groupの株式4.7%を保有する。EQTはフランスの独立系レーベル大手Believeを共同所有している。Goldman Sachs、オンタリオ教職員年金基金、Sapphire Ventures、BDT & MSDも今回初めて参加した。
Andreessen Horowitz、Lightspeed、ICONIQなど既存投資家も参加。このうちAlkeonとLightspeedはSunoにも出資しており、AI音楽市場の主要プレイヤー双方を押さえる動きが続いている。
事業面では、ElevenAgentsプラットフォームの週次会話数が1500万回(2月比3倍)、年間経常収益も同期間で3倍以上に成長したとしている。エンタープライズ顧客が収益の55%を占め、従業員数は2月末の530人から800人超に増加した。
なぜこれが重要か
数字が端的に示すのは、AI音楽市場における2社の開き方だ。ElevenLabsの$22Bは、Sunoが2026年6月のシリーズDで達成した$5.4Bの4倍以上にあたる。どちらも急成長しているが、評価額の格差は拡大している。
ただし単純比較には注意が必要だ。ElevenLabsはTTS(テキスト読み上げ)や音声エージェントを主力事業とし、ElevenMusicは2025年8月に参入した比較的新しい事業領域だ。一方、SunoはAI音楽生成のみに特化している。$22Bのほとんどは音声エージェント市場への期待値であって、音楽生成だけに賭けた評価ではない。
むしろ注目したいのは、GICとEQTという音楽業界のお金がAIオーディオ企業に入ったことだ。これはElevenLabsを「AI音楽の競合」ではなく「音楽産業のインフラ」として位置づける視点を示唆している。GICはUMGとSony Musicとの音楽権利共同事業も組んでいる。そのGICが今回ElevenLabsに乗った意味は、音楽産業の資本がAI企業を取り込もうとしているのか、それともAI企業が音楽産業を取り込もうとしているのかという問いを改めて浮かび上がらせる。
論点・異なる見方
ElevenLabsの高評価額が実態を反映しているかどうかには、慎重な見方もある。従業員テンダーの評価額は二次市場の取引ベースで決まり、通常のVCラウンドと比べて流動性が低く、価格発見の精度に限界がある。ARRが3倍以上に成長したと発表されているが、具体的な金額は非公表のまま(5月時点で$500M以上と発表済み)。「倍増した」と言えても、実数がわからない以上、外部からの評価は難しい。
もう一点。Sunoは現在もUMGとSony Musicからの著作権訴訟を抱えている。ElevenLabsがUMGと戦略的提携を結んでいることはポジションの違いを示すが、それがそのまま評価額の差に直結するほど単純な話かどうかは分からない。訴訟はまだ継続中であり、和解または判決の内容次第でAI音楽業界全体の構図が変わる可能性がある。
今後どう展開しそうか
ElevenLabsのCEOマティ・スタニスゼフスキは2月のシリーズD発表時に「IPOに向けて構築を続ける」と発言している。今回の評価額倍増がIPOへの準備と位置づけられるとすれば、2027年以降に上場の動きが出てくる可能性はある。ただし現時点で具体的な時期は示されていない。
音楽事業については、UMGとの共同開発プラットフォームが「数ヶ月から数年」という段階にある。Merlin、Kobalt、Believeとのライセンスに続き、メジャーレーベルとの連携が広がれば、ElevenMusicは「ライセンスされたAI音楽」の主要プレイヤーとしてより強固な立場を確立しうる。
作り手・聴き手への示唆
AI音楽ツールを使っている人にとって、評価額の数字それ自体よりも、それが意味するものの方が重要だ。ElevenLabsに音楽業界の機関投資家がつくということは、そのビジネスモデルが「権利者との協調」を前提にしていることを示す。使えるツールの種類や、生成した音楽の扱われ方は、その企業がどこからお金をとって誰に説明責任を負っているかで変わってくる。
SunoやUdioが「オープンな創作」を象徴するとすれば、ElevenLabsは「業界統合型の創作インフラ」になろうとしている。どちらのアプローチが自分の作り方に合っているかを考える材料として、こういった資本の動きは読んでおく価値がある。
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