ストリーミングへの楽曲アップロードに料金を——ORCAが提案する「スパム課金」の論理
インディーレーベルのシンクタンクORCAが、AI生成スパムによる被害に歯止めをかけるためにストリーミングサービスへのアップロードに1曲ごとの料金徴収を提案した。現行の対策が機能していないという判断が背景にある。
インディーレーベルが設立したシンクタンクORCA(Organization for Recorded Culture and Arts)が、ストリーミングサービスへの楽曲アップロードに1トラックあたりの料金を課す仕組みを提唱している。Beggars Groupなどが参加するこの組織のエグゼクティブ・ディレクター、パトリック・クリフトンが9月15日のブログ投稿で提案し、Music Allyが9月28日に報じた。
何が起きたか
ORCAの提案の骨格は4点だ。
- 新規録音物について、大量アップロードが経済的に引き合わなくなる水準の1トラックあたり料金を設ける
- 料金はストリーミングサービスとライセンス契約相手が個別に設定する
- 料金は契約単位で徴収し、ストリーミングサービスが集める
- 集めた資金はロイヤルティプールに組み入れ、通常の収益と同様に分配する
ポイントは免除規定だ。既存の品質保証スコアカードを更新して「人間が制作した正当な音楽」の作り手を認定し、信頼・安全審査を通過したクリエイターには料金を免除または引き下げる構想を持っている。
なぜ今この提案が出たか
数字がある。Luminateによると、2025年にストリーミングサービスへアップロードされた楽曲は3800万トラック。1日あたり約10万6000曲に相当し、サービス側は受け取りにコストゼロだ。
生成AIがこの構造を悪化させた、というのがORCAの主張だ。DeezerはAI生成トラックが1日約9万曲のペースで流入し、アップロード全体の50%に達したと発表している。さらにDeezerは1月の時点で、2025年にAI生成楽曲に発生したストリームの最大85%が不正だったと述べていた。
ORCAはBeatdappなどの不正対策企業も確認済みとしており、この数字が主要ストリーミングサービス全体に概ね当てはまると見ている。
現行の対策については、「効果が薄い」とはっきり言っている。IFPIが9月14日に立ち上げた「Streaming Integrity Initiative」はディストリビューターへの自発的な取り組みを求めるもので、「意図は称えられるが仕組みが軽い」と評価。UMGが主導するStreaming 2.0(年間1000ストリーム未満のトラックへの支払いを止める仕組み)も、Deezerのデータを見る限り問題は悪化しているとした。
論点と異なる見方
この提案に対してORCA自身が留保を示している点は注目に値する。クリフトンは料金を「慎重に設計する必要がある」と明記し、UMGのStreaming 2.0で起きたような「正当なアーティストへの意図せぬ収益消失」を繰り返さないことを条件に挙げた。
構造的な問いも残る。料金は契約単位で徴収されるため、ディストリビューター経由でリリースする個人アーティストにどう転嫁されるかは明示されていない。インディーのソングライターが突然コストの壁にぶつかるリスクは、検討の余地がある。
一方、料金収入をロイヤルティプールに還元するアイデアは筋が通っている。不正なAIスパムが同じプールのパイを削るという問題は、2024年のマイケル・スミス詐欺事件(AIストリーミング詐欺で800万ドル超を不正取得)でも浮き彫りになった構造だ。スパムをアップロードしにくくし、そこから得た資金を正当なアーティストに還元するという発想は、インセンティブの設計としてはシンプルだ。
今後どう展開しそうか
ORCA自身、これを「提案」と位置づけており、実際にどのストリーミングサービスが採用に動くかは未知数だ。ただ、UMGによるDistroKid提訴(6カ月で約1200万トラックのアップロードが問題視された)など、アップロード量をめぐる圧力は業界全体で高まっている。IFPIの取り組みと並行する形で、このような「コスト障壁」型の議論が具体化する可能性はある。
作り手・聴き手への示唆
AI音楽を制作して流通させているクリエイターにとっては、今後のコスト構造が変わりうるという話として読む必要がある。一方、「正当な人間制作音楽には免除」という設計思想は、AI支援作品とAI完全生成スパムを区別しようとするアプローチで、単純な規制よりは現実的な線引きを試みている。
ORCAは回答を求めているわけではなく、議論のたたき台を出している。このアイデアに対してどう反応するかは、ディストリビューター、ストリーミングサービス、そしてアーティスト自身にかかっている。