Universal Music Group(UMG)が2026年9月28日、Òscar Celmaを上級副社長(SVP, Applied AI and Machine Learning)に任命したと発表した。Celmaは最高データ責任者Hannah Poferлに直属する。

Celmaはスペイン・バルセロナのUPF(ポンペウファブラ大学)でコンピュータサイエンスの博士号を取得後、音楽情報検索の研究者として出発。GracenoteのシニアリサーチサイエンティストやBMAT Music Innovatorsの共同創業者CIOを経て、Pandora/SiriusXMで7年間にわたり機械学習・レコメンデーションの上位職を務めた。Spotifyでは、AI DJのベータ版が公開された2023年2月から、Jam・Daylistを含む聴取体験の新機能群を統括するエンジニアリングディレクターとして陣頭に立った。直近はCondé NastでML・プロダクトアナリティクスを率いていた。

なぜこれが重要か

UMGはこの一年、AI音楽に対して「ルールを作りながらプレイする」戦略を取ってきた。2025年10月にはUdioとの訴訟を和解しライセンス契約に転換。今年1月にはNVIDIAとMusic Flamingo開発で提携し、9月にはElevenLabsとのマルチイヤー契約も締結した。Stability AIには三大メジャーそろって出資している。

こうした外部との提携網を整備した上で、今度はAI人材を社内に引き込んだ。Celmaが携わったSpotifyのAI DJ・Daylists・Jamは、ユーザー個々の聴取文脈に合わせてリアルタイムで音楽を提案する機能群だ。数億人規模のデータから「聴き手の今」を解析する技術を持つ人材を、自社のカタログと組み合わせて何をしようとしているのかは、Poferлの発言に透けて見える——「UMGのデータの規模と深さには、アーティストのためにもっと多くのことを可能にする大きなポテンシャルがある」。

論点と異なる見方

UMGは一方でSuno・Anthropicなどへの訴訟を継続中であり、AI学習データの無断利用に厳しく対峙している。「AI否定派」と受け取られがちなポジションだが、実態はAI活用そのものへの反対ではなく、「誰がルールを定めるか」の主導権争いだ。Celmaの起用はその文脈で読むべきで、「人間のアーティストを支援するためのAI」という言説を内部から実装する布石と見られる。

批判的な視点もある。訴訟で学習データの開示を迫りながら、同時にAI人材を積極採用するという構図は、中小インディーズや個人アーティストにとって「ルールを決める側に都合のよい話」に映りかねない。プレイフィールドが最初から傾いているという見方は、単純な陰謀論ではない。

今後の展開

Poferлが描く「スーパーファン戦略」とCelmaのパーソナライゼーション技術が交差するなら、UMGのカタログを使ったレコメンデーション・プロダクト強化が最初の実装になる可能性が高い。ファンとアーティストの関係性をデータで再定義しようという試みは、SpotifyやApple Musicといった既存プラットフォームとの力関係にも影響しうる。

作り手・聴き手への示唆

SpotifyのAI DJを「便利だな」と使ってきた人は、あの体験を設計した人物が今度はUMGのカタログ側に移ったことを意識しておいていい。発見される音楽の文脈が、ストリーミングプラットフォーム主導からレーベル主導へとシフトする可能性がある。どちらがアーティストにとって良いかは、単純には言えない。


ソース: Music Business Worldwide