9月16日、Universal Music GroupはDistroKidを相手取り、デラウェア州連邦地裁に訴状を提出した。「欺瞞的な商行為と著作権侵害」を訴える52ページの文書には、AI生成楽曲の配信問題を論じるうえで無視できない数字が並んでいる。Music Business Worldwideが訴状の内容を詳細に分析した記事をもとに、その要点を整理する。

① ある主要ストリーミングへの供給楽曲の50%超がDistroKid経由

訴状によると、DistroKidは過去6ヶ月間で特定の主要ストリーミングサービスに約1,200万曲を納品した。これはそのプラットフォームが同期間に受け取った全楽曲の50%超に相当し、他の全ディストリビューターの合計を上回るという。

プラットフォーム名は訴状でも伏せられており、競合ディストリビューターの名称も黒塗りにされている。ただしその規模は、DistroKidがDIY配信市場においていかに支配的な位置を占めるかを示している。

② 1人の"アーティスト"が年間4,562曲をリリース

最もリリース量が多いアカウントは「Lofi Chill」という名義で、12ヶ月で4,562曲、月平均380曲(アルバム換算で毎月20〜30枚)をリリースしていたとされる。

訴状はこれを「人間のミュージシャンが達成できないペース」と形容した。同様のアカウントには「Chill Flow Radio」(年間1,901曲)、「Mellow Vibes Radio」(年間1,615曲)などがある。これらに共通するのは、汎用的な名前、AI生成のカバーアート、アルゴリズム最適化されたトラック名、そしてSNSの存在感がゼロという点だ。

③ 特定カタログの98%がSuno出力と判定

技術的分析の結果、Mellow Vibes RadioのトラックのうちSuno出力と判定されたものが98%超、Chill Flow Radioも97%超に達したという。

また、今年第1四半期にSIQA(Streaming Industry Quality Alliance)のチャートに申請された1,551件のAI楽曲のうち、90.4%がSuno製、75.8%がDistroKid経由で配信されていたことも明記されている。

④ 著名アーティスト1,000作品がコピーされた

UMGは権利管理ツール(YouTubeのContent IDなど)を使い、DistroKid経由で配信された楽曲が自社の1,000録音を丸ごとまたは部分的にコピーしていると主張している。対象にはBillie Eilish、Lady Gaga、Kendrick Lamar、The Weeknd、Elton Johnらの楽曲が含まれ、具体例も訴状に記載されている。

たとえばEllie GoudingのLove Me Like You Doは同一タイトルのスローダウン版として、Lady GagaのJudasは「Judas Sped Up」名義で配信されていたとされる。Sam SmithとKim Petrasの「Unholy」をコピーしたバージョンは2万9,646再生を記録していたことも訴状に添付されたスクリーンショットで示された。

⑤ 最大1.5億ドルの損害賠償

米著作権法の法定最高額である1作品あたり15万ドルを1,000作品に適用すると、上限は1億5,000万ドルになる。これはあくまで理論上の天井だが、UMGが訴訟を通じて示したいメッセージは金額以上に大きい。

訴訟の構造を読む

UMGの訴えは2つの軸からなる。一つは著作権侵害の4訴因(コピーされた録音に対するもの)、もう一つはデラウェア州統一欺瞞的商慣行法(DTPA)違反——AI生成楽曲を人間の音楽であるかのように偽って流通させたという主張だ。

注目すべきは、UMGが訴状の注釈で「AI生成音楽そのものが問題なのではなく、それが明確に開示されていない場合が問題だ」と明示していることだ。DistroKidを訴えるにあたってUMGは、自社が「配信業者として競合する立場にある」ことをわざわざ論証しなければならない(DTPAが企業間の法律であるため)。そのために訴状はDistroKidのマスタリング、映像、グッズ事業を列挙し、レコード会社が担う機能との重複を丁寧に示している。

何が変わるか

この訴訟が示すのは、DistroKidに象徴される「誰でも配信できる」インフラが、AI生成楽曲の大量流通と組み合わさったときに何が起きるかという問題だ。配信の民主化は音楽文化を豊かにしてきた。だがその同じ仕組みが、著名アーティストの楽曲をコピーしたAI音楽の大量流通を可能にしているという現実も、この訴状は数字で突きつけている。

裁判の行方は未知数だ。DistroKidが「人間の音楽のふりをさせた」という欺瞞の主張が通るかどうかは、今後の審理次第になる。しかし訴状に記された統計は、それ自体がこの問題の規模を示す1次資料として機能している。


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