「AIには失恋した経験がない。ストーリーを持っていない。借りてきたストーリーがあるだけだ。だから、本当の意味では歌を聴いていることにはならない」

The PoliceのボーカリストでソロアーティストのSting(74歳)が9月20日、BBCの「Sunday With Laura Kuenssberg」でAI音楽についてこう語った。AI音楽との「競争は感じない」という発言は、表面的には強気に見えるが、実はAI音楽が抱える根本的な問いに触れている。

何が起きたか

Stingは番組で、AIは「駅や空港のロビーで流れる、それなりに使える(perfectly serviceable)ポップ音楽」を作ることはできると認めた。しかし聴き手が「聞こえる(hear)」のと「聴く(listen)」のは違う、と区別した。

一方で彼は、「AIが労働経済を破壊する危険がある」とも警告している。音楽の質への脅威というよりも、産業としての雇用への脅威という見方だ。

この発言と前後して、他のアーティストも相次いで意見を表明している。David Bowieの元プロデューサー、Tony Viscontiは「Bowieなら実験していただろうが、(AIは)気持ち悪い」と発言。ダンスプロデューサーのNia Archivesは「はかない技術的な瞬間に過ぎない」と一蹴した。一方、4 Non BlondesのLinda Perryは「電子レンジが出たとき、みんな家庭料理の終わりだと思った。でもそうはならなかった。未来から逃げようとすれば、解決策から逃げることになる」と、受け入れを促した。

なぜこれが重要か

Stingの発言は「AI音楽は音楽じゃない」という単純な否定ではない。彼が言っているのは、AIには「生きた文脈(lived experience)」が欠けているということだ。

そこには重要な問いがある。音楽における「ストーリー」とは何か。そして、リスナーはそれを必要としているのか。

AIが生成する楽曲は、確かに誰かの失恋や喪失から直接生まれていない。だがリスナーが、その音楽に自分のストーリーを投影することはできる。また、AIを使って制作する人間のアーティストは、自分の意図や感情をプロンプトという形で注ぎ込む。「AIの音楽には物語がない」という命題は、AIが単独で自律生成したケースには当てはまるかもしれないが、AI音楽全般には当てはまらない。

論点・異なる見方

「駅や空港のロビーで流れる音楽」という表現は、Stingが意図したかどうかにかかわらず、機能音楽(functional music)の領域をAIの領分として認めているとも読める。それ自体は巨大な市場だ。

一方で「would you listen to it?」という問いかけは、能動的な聴取行為の意味を問うている。ストリーミングが爆発的に広がった現代、ほとんどの音楽はすでに「流れているもの」として消費されている。AIとの境界が、実はそこまで鮮明ではないかもしれない。

Nia Archivesの「長続きしない」という予測は、テクノロジーの普及速度を考えると楽観的すぎる可能性がある。Linda Perryの電子レンジの比喩は示唆的だ──道具として定着するかどうかは、それを使う側の使い方次第だという話だからだ。

今後どう展開しそうか

「Stingは競争を感じない」が、だからといってAI音楽が消えるわけではない。SunoのIPOが視野に入り、メジャーレーベルとのライセンス契約が相次いでいる今、産業としてのAI音楽の勢いはむしろ増している。

問われているのは、AIが生成した音楽に人々が長期的に「価値を見出すか」という問いだ。今のところ、答えは出ていない。

作り手・聴き手への示唆

Stingが指摘した「借りてきたストーリー」という問いは、AI音楽を作る側にとっても有効な自問になりうる。自分はこの楽曲に、何を込めているのか。プロンプトは、意図を持った選択なのか。

「それなりに使える音楽」を大量生産することと、「聴かれる音楽」を作ることは違う。AIを使う側の人間が、その差を意識しているかどうか──それが、この先のAI音楽の文化的価値を決めるかもしれない。


ソース: Sting says human artists face no competition from AI made music – The Independent(2026年9月20日)