AI音楽シーンを追うデータ機関SIQA(The Sonic Intelligence Academy)が9月14日、「Mid-Year 2026 AI Music Intelligence Report」を公開した。SIQAが独自に運営するAI音楽チャートへの投稿データをもとに、2026年4月1日から8月20日までの20週間を分析したもので、1,743件の検証済み投稿、886アーティスト、54カ国をカバーする。

同時に発表されたのが「SIQA Verified Registry」とiOSアプリだ。アーティストが自作品の来歴を事前に登録しておき、リスナーや業界関係者がShazam感覚で楽曲のAI分類を確認できる仕組みを提供する。

何が起きたか

今回のレポートで最も注目すべき数字は、楽曲分類の変化だ。SIQAは投稿楽曲をアーティスト自己申告のもとで三段階に分類している。

分類 Q1 2026 Mid-Year 2026
AI-Assisted(人間が主導、AIが補助) 48.4% 51.7%
Human + AI Hybrid(本人の声をクローン等で使用) 32.4% 34.4%
Fully AI-Generated(完全生成) 19.2% 13.9%

完全AI生成が1期間で5.3ポイント下落した。AI-AssistedとHybridはいずれも増加しており、三分類すべてが同じ方向に動いている。

ジャンルではR&B/Soulが32.0%でトップを維持しつつ、Gospelが8.1%から14.0%へと急伸し最も成長の速いジャンルになった。Hip-Hop/Rapは11.8%から7.1%へと後退。ツール別ではSunoが90.4%から92.8%へとシェアをさらに高め、残りはChatGPT(歌詞用途、16.3%)が続く。

ディストリビューターではDistroKidが77.6%を占め、TuneCoreaが4.7%から1.7%へ急落している。TuneCore(Believe傘下)が今年4月、ライセンス未契約のSuno楽曲の流通を停止したタイミングと符合する。

なぜこれが重要か

「完全AI生成が減っている」は、額面通りに読むと前向きなニュースに見える。しかしこの数字が示すものはもう少し複雑だ。

一つは、チャートアクセスのコストが変わったという事実だ。今年7月、主要音楽企業11社が完全AI生成楽曲をチャート対象外とする基準を提案。データ集計終了の5日後にはオーストラリアのARIAが完全AI生成曲を公式チャートから除外した。「完全生成」と申告することのコストが上がれば、申告する人は減る。

SIQAのデータはあくまで「申告値」だ。完全AI生成の減少が本当に創作スタイルの変化を反映しているのか、それとも有利なラベルを選ぶインセンティブが働いているのかは、このデータだけでは判断できない。SIQAも注釈を付けており、誠実な姿勢だとは言える。

もう一つの読み方は、AIツール自体の役割の変化だ。AIが「作る」道具から「磨く」道具へと使われ方が変わっている可能性は十分ある。SunoのシェアがQ1より上がりながら完全生成が減っているなら、Sunoをサビのアイデア出しや声質の調整に使い、仕上げは人間が担うというワークフローが広がっているとも読める。

論点・異なる見方

SIQAの分類框架は自社が設計した独自基準であり、検証も自社が行う。プレスリリースは「業界の信頼できる照会先」と自らを位置づけているが、現時点ではメジャーレーベルや主要DSPとの公式連携は発表されていない。「提案された標準」であり「合意された標準」ではない、という指摘はフェアだ。

一方で、SIQAが今回ローンチした「Verified Registry」の思想は見逃せない。業界の主流アプローチが「リリース後にフラグを立てる」事後検知であるのに対し、SIQAは「アーティストが先に登録する」事前証明を軸に置く。「Verified, Not Flagged(疑われるのではなく、証明される)」というキャッチは、AI音楽クリエイターが長く感じてきた非対称性への返答として機能している。

今後どう展開しそうか

データウィンドウはSuno v6のリリース(9月9日)前に閉じている。v6が旧モデルをすべて退場させ、ダウンロード上限の変更も加わった今、フルイヤーレポートは質的に異なる局面を映す可能性が高い。Udioのシェアが1%を下回り続けているのも、v6前後でどう変化するかは注目点だ。

Verified Registryがどの程度の普及速度で採用されるかも、業界の態度を測るバロメーターになる。アーティスト側が自主的に登録するエコシステムは、強制的なラベリング施策とは質が違う。ただし、権威として機能するには規模が必要で、規模には時間がかかる。

作り手・聴き手への示唆

AI音楽で楽曲をリリースしている人にとって、今回のデータが示すのはシンプルな変化だ——「どう作ったか」の申告が、チャートへのアクセスに直結し始めている。完全AI生成であることを透明に示すことを選ぶのか、人間の関与を増やすことで分類を変えるのか。それはツールの問題ではなく、戦略の問題になってきた。

聴く側にとっては、「AI音楽かどうか」という二値の問いが「どれだけ人間が関わっているか」という連続体の問いに変わりつつあることを、SIQAのデータは示している。どちらに価値を見出すかは個人の判断だが、その問い自体が解像度を増しているのは確かだ。


ソース: SIQA Mid-Year 2026 AI Music Intelligence Report / PR Newswire / SIQA Verified Registry