AI音楽ツールの話題はSunoやUdioのような「曲を生成するプラットフォーム」に集中しがちだ。だが今週登場したLunacy AudioのNovaは、別のレイヤーに踏み込んでいる。「AIで音楽を作る」ではなく、「AIで音楽ツールを作る」という話だ。

何が起きたか

Lunacy Audioは9月17日、新プラットフォーム「Nova」を正式ローンチした。NovaはDAWプラグイン(VST3/AU/AAX対応)、ブラウザ上で動くクラウド楽器、そして将来的には誰でもプラグインを自作・販売できるマーケットプレイスを一体化したプロジェクトだ。

現時点ではLunacy製および少数のパートナー開発者(Virtual Riot、Rainbow Circuitなど)による10本のインストゥルメントが収録されている。ローカルインストール不要でブラウザからも使えるほか、DAWに読み込んでソフトシンセとして使うことも可能。ローンチバンドルとして5本のプレミアムプラグインが通常149ドルのところ99ドルで提供されている。

The Vergeが報じたのは、Novaの「もう一つの顔」である。Lunacyは「Nova Builder」の開発を進行中で、これが完成すればコードを書かずにAIプロンプトと既製のエフェクトブロックを組み合わせて自分だけのプラグインを作り、他のユーザーに販売・共有できるようになるという。CEOのCasey Kolbはプレスリリースで「誰かがステップシーケンサーを作ってシェアする。あなたはそれを開いて、自分のシマーリバーブを末尾に足したくなる。足せる。共有できる。そこからさらに誰かが拡張する。ツールは固定されない、常に進化し続ける」と説明した。

なぜこれが重要か

音楽制作の民主化は「誰でも曲が作れる」段階から「誰でもツールが作れる」段階へ移行しつつある、という仮説をNovaは示している。

これまでVSTプラグインの開発はC++やJUCEフレームワークの知識が必要で、多くのサウンドデザイナーや音楽家にとって壁が高かった。Nova Builderのアプローチが機能すれば、「自分が欲しいエフェクトを作って販売する」ことが特定の開発スキルなしにできるようになる。コミュニティが自らツールエコシステムを育てる形だ。

マーケットプレイスモデルも注目点だ。ElevenLabsやSunoが「生成物」を中心にしたエコシステムを作ろうとしているのに対して、Novaは「生成ツールそのもの」を流通させる方向性を選んでいる。

論点・異なる見方

Lunacyはこの展開を「公開開発」で進めている。開発者ダイアリーの配信や顧客フィードバックの積極的な取り込みで、AI音楽ツールへの拒絶反応を乗り越えようとする姿勢だ。

The Vergeも指摘しているように、AIを使った音楽ツールに対するミュージシャンコミュニティの反応はこれまでのところ「冷淡から敵対的」の範囲にある。Polyendのギターエフェクトペダル「Endless」など先行する試みも、熱狂よりも懐疑で受け取られてきた。Nova Builderが「誰でも売れる」マーケットプレイスになった場合、クオリティ管理とツールの乱立という問題も浮上するだろう。

今後どう展開しそうか

Nova Builderの具体的なリリース時期はまだ公表されていない。まずは現行の楽器ラインアップとホストプラグインで市場感触を確かめ、コミュニティを育ててからというシーケンスになりそうだ。

AI生成ツールのマーケットプレイスは前例が少ない。成功すれば、音楽ソフトウェアの販売モデルそのものを塗り替える可能性があるが、不確実性も高い。

作り手への示唆

「AIで曲を作る」ことへの距離感はアーティストによって様々だ。一方で「自分が使いたいエフェクトやシンセを作ること」への関心は多くの音楽家が持っている。Nova Builderが実際に機能するなら、そのニーズと直結するプロジェクトになる。

今すぐ使えるインストゥルメント10本については、The Vergeのレビューによれば音質は「かなり良い」とのこと。関心があるなら触ってみる価値はある。


Source: The Verge / Lunacy Audio Nova