AIが生成した「アーティスト」が、自分たちのアワードのステージに立つ。11月13日、ロサンゼルスのThe Mayanで開催される初のAI Music Awardsで、そんな光景が現実になろうとしている。

何が起きているか

主催はSIQA(The Sonic Intelligence Academy)。音楽業界初を名乗るAI音楽チャートを運営し、AI楽曲の制作関与度を記録する「Verified Registry」を立ち上げた組織だ。1517 Fundが出資している。

発表された出演者はXania Monet、Olivia B Moore、Chaisen Hale、EJ Rogers、Sheena Taylorほか。いずれもAI生成音源として存在する「アーティスト」たちだ。

ただしSIQAが言う「ライブパフォーマンス」の形式は、「ハイブリッド:ヒューマン+AIのショーケース」。ライブバンドと没入型ビジュアルを組み合わせ、各AI「アーティスト」の背後にいるクリエイターが「ステージを演出する」という。ボーカルをどう届けるかは、現時点で明示されていない。

授賞部門は25カテゴリー。AI Song of the Year、AI Artist of the Year、AI Album of the Year、AI Producer of the Yearを筆頭に、R&B・カントリー・ゴスペル・ポップ・ロック/オルタナ・ヒップホップ・ジャズ・ミュージカルシアター・コメディ・インターナショナルの10ジャンル別にわたる。受賞者はアルゴリズムでも一般投票でもなく、SIQAのVerified Registryに登録されたアーティスト同士の投票で決まる。「匿名の投票なし、ブラックボックスのアルゴリズムなし。仲間が仲間を称える」と同社は述べている。

チケットは250ドル、会場キャパは600席で、一般向けにはまだ100席未満しか公開されていない。世界配信も予定されている。

このニュースが示すもの

Xania Monetは、シンガーソングライターのTelisha "Nikki" JonesがSunoに自作の詩を入力して生成したAIアーティストだ。「How Was I Supposed To Know?」でHallwood Mediaとの数百万ドル規模の契約をめぐる入札合戦を経て、Neil Jacobsonのレーベルと契約した。

MBWがSunoについて過去に指摘したように、AI生成プラットフォームの音楽には「ツアーするアーティストも、建てるステージも、予約する会場も存在しない」。だからこそ今回の試みは、その前提への直接的な問いかけになっている。

SIQAの集計によれば、同チャートに提出されたAIトラックの90.4%がSuno製で、75.8%がDistroKid経由で流通していた(UMGがDistroKidをAIスラムで訴えた背景の一つでもある)。AI音楽の流通とチャートの実態が数字で示される一方、その「文化的シーン」としての整備が進み始めている。

論点

ここで生じる問いはいくつかある。

ステージに立つのはあくまでクリエイター側の人間だとすれば、それは「AIアーティストのライブ」なのか、それとも「AI生成コンテンツのライブデモンストレーション」なのか。この区別を曖昧にしたまま進めることへの批判は避けられないだろう。

一方で、クリエイターが前に出ることで「背後にいる人間」が可視化されるという意義もある。SIQAの理念は「humans behind the art(アートの背後にいる人間)を称える」であり、これはAI音楽批判の核心——創造性の帰属問題——に真正面から向き合う姿勢とも読める。

ただし、Xania Monetのようなケースが持つ「バーチャルアーティスト」としての商業的成功と、アワードのメッセージが一致するかどうかは別の話だ。

今後

11月13日まで約2ヶ月。「celebrity appearances」を含む追加出演者の発表が続く見込みで、ライブのフォーマットが具体化するにつれて議論は深まると思われる。

DistroKid訴訟、Verified Registry、AI Music Awardsと、AI音楽のインフラとルールが急速に整備されつつある今、「AIアーティストのシーン」が既存の音楽業界から独立した独自の文化圏を形成しようとしているように見える。それを歓迎するか、警戒するかは立場によって異なるが、その動きが始まっていること自体は否定しにくい。


Source: Music Business Worldwide