「契約が存在しない以上、支払義務もない」——UMGとWarnerが音楽家組合の訴訟棄却を迫る
UMGとWarner Recordsが米国音楽家連盟(AFM)のSuno・Udio関連訴訟に対する反論書面を提出。AFM側弁護士が法廷で「AIに関する基本合意書は存在しない」と認めたことを根拠に、訴訟そのものの棄却を求めている。
ニューヨーク連邦地裁で進む米国音楽家連盟(AFM)対Universal Music Group(UMG)・Warner Recordsの訴訟に、大きな動きがあった。9月11日(金)、両レーベルがAFM側の主張に反論する書面を提出し、訴訟の棄却を強く求めた。
何が起きたか
AFMは今年6月、メジャーレーベルがAI音楽サービスのSunoとUdioにメンバーの録音を提供する際、スタジオ録音労働協定(SRLA)に基づく報酬と告知義務を怠ったとして提訴した。7月24日に訴状を修正し、8月にはUMGとWarner(Atlantic含む)がそれぞれ棄却の申し立てを行った。9月4日にAFMが反論書面を提出し、今回の両社の再反論でひとまず書面審理が終了した形だ。
争点はSRLAの第21条(a)項、「本協定の対象外の目的」での録音使用を「新たな使用」として扱う条項にある。AFMは、AIへの学習データ提供がこの「新たな使用」に当たり、報酬が発生すると主張していた。
UMGの書面は、7月の事前協議で地裁判事のEdgardo Ramos氏がAFM側弁護士に「AIのための基本合意書は存在するか」と問いただした場面を引用している。AFM側弁護士のEyad Asad氏は「存在しません。AI使用に関する基本合意書がないことは認めます」と答えた。
「存在しない合意書によって算定される支払義務は、支払義務ではない。この自認によって本件は終わる」
——UMGの書面はそう断じている。
なぜこれが重要か
集団交渉の現場では、既存の労働協定をAI時代にどう拡張するかが最大の焦点になっている。AFMが訴えたのは、その問いを法廷でケリをつけようとしたからだ。
だが今回の構図は皮肉だ。AFMが依拠していた条項(第21条(a)項)は、「新たな目的に対応する別の合意書があること」を前提としている。その合意書がなければ支払義務の「算定基準」も存在しないというのがUMG・Warner側の主張であり、AFM自身が「AI用の合意書はない」と認めた以上、その論拠は成立しないという。
Warnerの書面も同様の線で攻める。「AFMのSRLA解釈を認めれば、裁判所が価格の『中央計画者』になる」と述べ、料率の設定は労使交渉に委ねられるべき事項だと主張した。
論点・異なる見方
AFM側が「SRLA自体がその算定基準を供給できる」と論じたのは理解できる戦略だ。既存のセッション演奏報酬額を基準にする解釈で、合意書の不在を回避しようとした。
しかしUMGは「SRLAのセッション報酬は既に支払われている。追加支払いを求める権利はない」と切り返す。Warnerは「first amended complaint(修正訴状)にサンプリングという言葉は一度も出てこない」として、AFMが反論で初めて持ち出したサンプリング理論を「新たな請求を脚注で追加しようとした」と退けた。
一方、AFMの訴えの本質的な問いかけ——「メンバーの録音がAI学習に使われたとき、誰が何を誰に払うべきか」——は、法廷の外で労使交渉が続いている。Warnerの書面自体が「AIに関する集団交渉は現在進行中」と認めているように、法廷での敗訴はすなわち交渉力の低下を意味するかもしれない。
今後どう展開しそうか
UMGとWarner はいずれも「棄却は prejudice(確定的棄却)とすべき」と求めており、再修正訴状の余地を閉じようとしている。判事の判断は数カ月以内に下るとみられる。
棄却が認められれば、AFMは交渉テーブルに戻るほかない。棄却が否定されれば、AI学習への既存録音利用に対する報酬請求という新たな法的ルートが開かれる可能性がある。その波及効果は、SunoやUdioを超えて業界全体に及ぶ。
作り手・聴き手への示唆
スタジオミュージシャンやセッションプレイヤーにとっては、今後の展開が切実だ。既存の労働協定がAI時代に機能するかどうかは、この訴訟が一つの試金石になっている。
AIで作られた音楽を聴く側からすれば、その背景で誰が何を失い、何を得ているかは見えにくい。ただ、「AI用の合意書が存在しない」という事実は、業界がいまだ移行期の真っただ中にあることを示している。
情報源: Music Business Worldwide (2026年9月17日)