「アーティストが同意しなければ、それだけ学習データが少なくなる。それでいい」——BelieveのCEO、Denis Ladegaillerieは、Music Business Worldwideとのインタビューでそう言い切った。

何が起きたか

9月8日のSuno V6リリースと同時に、BelieveはSunoとのライセンス契約の詳細をMBWに語った。ポイントは、その同意設計の二重構造にある。

Believeが採用しているのは「2段階オプトイン」だ。

第1段階: AI全般への参加意思を問う。「あなたの音楽をAI関連プログラムで使用することを検討してよいか」を確認し、アーティストがオプトインした場合のみ次に進む。

第2段階: 個別のパートナーごとにあらためて同意を取る。Suno、Spotify、YouTubeそれぞれについて、個別のオプトアウト権が保障される。

Ladegaillerieの言葉を直接引用する。

「第1段階でオプトインしたアーティスト全員に連絡し、『Sunoの契約についてこういう内容だが、参加するか辞退するか』と伝えます。辞退する場合はオプトアウトします」

なお、Sunoの旧モデル(V6以前)で生成されたトラックは、今後もBelieve/TuneCoreでの配信がブロックされたままだ。V6が「ライセンスされた素材のみ」を使って一から学習されたとSunoが主張しているため、V6以降のモデルによる生成作品のみが配信対象となる。

Believe自身の「Responsible AI Framework」は「同意・管理・報酬・透明性」の4原則に基づいており、Ladegaillerieはこれが「今回の交渉での非交渉事項(non-negotiable drivers)」だったと述べた。

なぜこれが重要か

9月9日付の既報(Suno×Believe契約発表)では「オプトイン方式を採用」という事実を取り上げた。今回明らかになったのは、その同意設計が実際にどう機能するかという詳細だ。

重要なのは、第2段階の個別オプトアウト権の存在だ。「AI全般への参加」と「Sunoへの提供」は別問題として扱われる。AI利活用に前向きなアーティストであっても、Sunoには乗りたくない、という判断が可能な設計になっている。

この粒度の同意設計を、大手ディストリビューターが公開の場で説明したのは珍しい。「オプトイン」という言葉は使いやすいが、その実質は設計次第でまったく異なる。Believeの場合は、契約単位で断れる権利を設けることで、形式的な同意と実質的な同意を分けている。

一方、この仕組みが他のディストリビューターにとっての「業界標準」になるかどうかは別問題だ。小規模なディストリビューターには、このような個別対応のコストを負担できないケースも多い。

論点・異なる見方

Ladegaillerieは「AIからの収益は当面、全体の小さな割合に留まる」とも述べた。AI収益を過大評価も過小評価もしない、現実的な見立てだ。この発言は、「参加しないと機会損失が大きい」という業界内の圧力を相対化する意味でも注目できる。

ただし、Suno V6の正確な学習データ構成については独立した検証がなく、「V6はライセンスされた素材のみ」というSunoの主張をBelieveが信頼しているという構図は変わらない。UMGやSony Musicはまだ係争中で、学習データをめぐる争点は解決していない。ライセンス契約を積み上げることで事実上の業界標準を作りにいくSunoの戦略と、訴訟で問題を根本解決しようとするメジャーの立場は、まだ交わっていない。

今後どう展開しそうか

Believe/TuneCoreがSuno V6向けに実際に何アーティスト分の学習データを提供するかは、今後の同意収集次第だ。第1段階でオプトインしているアーティストがどれだけいるかも現時点では非公開だが、TuneCoreの規模(世界で数百万人のアーティストを抱えるとされる)を考えれば、この数が業界における議論に影響を与えるのは確かだろう。

SunoはV6リリースに合わせてBMGやWMGとも連携しており、「ライセンスされたAI音楽」モデルの実例が積み上がりつつある。ただしその評価は、V6モデルで実際にどんな音楽が作られ、どんな経路で流通するかが見えてきてからでなければ下せない。

作り手・聴き手への示唆

TuneCoreを使っているアーティストは、近い将来「Sunoの学習データに参加するか」という選択肢が届く可能性がある。選択が来たとき慌てないために、自分にとってAI学習への提供が何を意味するのかを、事前に整理しておく価値はある。

「参加する」は必ずしも支持を意味せず、「辞退する」は必ずしも拒絶を意味しない。少なくとも選択肢が存在する状況は、「取り込まれるか取り込まれないかしかない」という状況よりは複雑だ。複雑さを、どう使うかは自分次第だと思う。


ソース: Music Business Worldwide