9月10日、ロンドンで開かれた「AIM Connected」カンファレンス。英国インディーズ音楽協会(AIM)のCEO、ジー・デイビー氏は閉会の言葉でこう語った。

「インディーズ音楽は英国音楽産業全体にとっての、炭鉱のカナリアだ」

炭鉱の坑道に持ち込まれ、有毒ガスをいち早く察知するカナリア。デイビー氏が伝えようとしたメッセージは単純だ——インディーズに起きていることは、産業全体に起きつつあることの先行指標である。

何が起きたか

デイビー氏が示した統計は具体的だ。

「3年前、英国アーティストは世界のシングルおよびアルバムのグローバルトップ10において、3分の1以上の席を占めていた。直近の集計では、その数はゼロだ。トップ10のどちらにも、英国アーティストは一人もいない」

同氏はAIMがロビー活動において直面する構造的な問題も明かした。独立系音楽産業は、大手レーベルと異なりエコノミストを雇って政策立案者に提示できるデータポイントを作る予算がない。映画・テレビ・ゲーム・オーケストラといった他のクリエイティブ産業には税制優遇がある。録音音楽、とりわけインディーズはその「例外」だという。

AI問題についても正面から取り上げた。英国政府の「ミュージック・プラン」が「AIは使用する音楽のライセンスを取得しなければならない」と表明したことは「歓迎」しつつも、それを実際に機能させる具体策を求めた。

「政府は無許諾AIに対してより強く知的財産権を守り、例外なき施行と実効性のある執行を実現し、パーソナリティ権を強化し、オプトイン同意と公正な報酬交渉を英国音楽にとって交渉不可能な原則にしなければならない」

なぜこれが重要か

「英国チャートから英国アーティストが消えた」という統計は、AI音楽だけが原因ではない。デイビー氏はスタジオの閉鎖、EU向け物販への新たな関税なども挙げており、複合的な構造変化の結果だ。

ただし、この数字が示す傾向の一因としてAIが関係している可能性は否定できない。AI生成音楽がプラットフォームに大量流通することで、インディーズアーティストにとってのディスカバリーがどれほど難しくなっているか——その因果を測定する方法はまだない。それが「インディーズには政策のための数字を作る予算がない」という問題と連動している。

注目すべきは、デイビー氏が「AI音楽そのもの」を悪として語っていない点だ。問題は「無許諾」であること。AIを使う音楽制作者への攻撃ではなく、ライセンスなしで学習するAI企業への規制強化を求めている。

この区別はRezonate Magazineの立場とも重なる。ツールが何かではなく、そのツールが音楽との関係をどう組み直すかが問われている。

論点・異なる見方

「英国チャートから英国が消えた」という事実に対する解釈は複数ある。

ひとつは「グローバル化の自然な結果」という見方だ。韓国(K-POP)、ラテン系アーティスト、アメリカの大型プロデューサーが世界市場で存在感を高めるなかで、英国の相対的地位が下がるのはある種の自然な傾向とも言える。

別の見方は「資金・支援の非対称性」だ。他国の音楽産業は政府の手厚い支援(フランスの音楽業界への公的資金、韓国の文化輸出支援など)を受けている。英国が政策的に遅れをとれば、アーティストが生き残れる環境が崩れていく。

AI音楽のライセンス問題について言えば、「強力な施行」を求めるインディーズの声は、実はメジャーレーベルの利益とも一致する部分がある。ただし、メジャーはすでに訴訟や交渉によって個別に対処できる法務リソースを持っている。インディーズにはない。規制が整備されなければ、その差はさらに開く。

今後どう展開しそうか

英国政府の「ミュージック・プラン」は表明だ。実際の立法・執行には別のプロセスが必要で、選挙サイクルや政策優先事項によっては後回しになるリスクがある。

デイビー氏が「例外なき施行」を強調したのは、EUのGDPRやAI法をめぐって起きた「各国の骨抜き」への懸念と同じ文脈だ。良い法律も執行されなければ意味がない。

実効性のある変化が生まれるとすれば、カンファレンスの言葉がロビー活動の圧力に変換され、具体的な立法提案が生まれ、それが議会を通過するまでの、長い道のりが必要だ。

作り手・聴き手への示唆

インディーズのアーティストにとって、この話は遠い政治の話ではない。ライセンス問題の結果は、自分の楽曲がどこで、どのように発見されるかに直結する。

AIを使って音楽を作っている人にとっても同様だ。「ライセンスされたAIツールを使う」ことは、単なる法的コンプライアンスではなく、自分たちが存在したい音楽エコシステムへの投票でもある。

英国チャートのトップ10から英国のアーティストが消えた。その数字が、AI音楽の議論と別の話だと思っていたとしたら、それはまだ部分的な見方かもしれない。


Source: Music Ally