無料で使えるAI作曲ツール「YuE2」公開——Suno超えのスコアを叩き出した「楽譜を読む」新世代モデル
AI研究コミュニティのM-A-Pが9月10日に公開したYuE2は、メロディと和音の「楽譜」を先に生成してから音声に変換するという独自のアプローチで、ベンチマーク上でSuno v5を上回る結果を記録した。CC BY-NC 4.0ライセンスで無料公開、日本語ボーカルも対応する。
AI研究コミュニティのMultimodal Art Projection(M-A-P)が2026年9月10日、音楽生成AI「YuE2」を公開した。開発チームは「Suno 5に匹敵するオープンな音楽生成モデル」と位置づけており、WildSongBenchと呼ばれるベンチマークでは、特定条件下でSuno v5を上回るスコアを記録している。
何が起きたか
YuE2の最大の特徴は「シンボリックプランニング」と呼ばれる生成プロセスだ。テキストのスタイルプロンプトと歌詞を入力すると、まずABC記譜法(楽譜記述フォーマット)によるメロディ・コード進行のプランを生成し、そのプランをもとに最終的な音声(ボーカル+伴奏)を作り出す。従来の多くのAI音楽ツールが「テキスト→音声」を直接生成するのとは一線を画す設計だ。
WildSongBench(192プロンプト、17システム比較)における評価では、YuE2の通常生成はSongBenchスコア6.7台で、Suno v5(6.8721)にはわずかに届かない。ただし「8回生成して最良を選ぶ(Bo8)」という条件では6.9632を記録し、評価対象17設定の中で最高スコアとなった。Suno v6は6.5562、Suno v6 Wildは6.4195だった。
対応する入力形式もユニークで、テキストプロンプトだけでなく既存曲のABC記譜から「スタイル変換(ゼロショットカバー)」を行う機能も持つ。さらに生成した楽曲のスコア・アレンジ・歌詞をエージェントとの会話形式で段階的に修正していく「エージェンティック編集」も実装されている。
モデルはパラメータ数約35.9億(3.59B)、28層構成。CC BY-NC 4.0ライセンスで公開されており、非商用であれば無料で利用できる。ローカル実行も可能で、開発チームの計測ではNVIDIA GeForce RTX 4090(VRAM 24GB)を使用した場合、約3分35秒(214.85秒)の楽曲を71秒で生成できた(ピークメモリ使用量14.08GiB)。日本語ボーカルにも対応しており、公式デモサイトで日本語楽曲のサンプルが聴ける。
なぜこれが重要か
AI音楽ツールの競合はSunoとUdioが長らく先行してきたが、両社はいずれも有料・クローズドソースのサービスだ。YuE2はその性能域に初めて無料・オープンで踏み込んできたモデルと言える。
より本質的な違いは「生成過程が見える」点にある。YuE2が先に出力するABC記譜のスコアは、テキストとして人間が読み書きできる。これは「AIが何をどう解釈したか」を確認し、介入できる余地を作るということだ。スタイルプロンプトを変えてもなかなか意図通りにならない、という経験をしたことがある人なら、この差の大きさはわかるはずだ。
論点・異なる見方
一方で、実用上の制約もある。まず「Bo8」は8回生成して最良を選ぶという条件だから、スコアの高さはそのまま一発生成の品質を意味しない。ローカル実行にはRTX 4090クラスのGPUが必要で、一般のユーザーがすぐに試せる環境かどうかは別の話だ。
ライセンスはCC BY-NC 4.0、つまり非商用限定。商業利用をしたい場合は別途ライセンスが必要になる。Sunoが「ライセンス済み楽曲で再学習したモデル」を打ち出す動きを見せているのとは対照的に、YuE2は学習データの透明性についての詳細をまだ十分に開示していない。
今後どう展開しそうか
YuE2のリリースはv0.1.6であり、開発初期段階にある。M-A-PはMERT2(音楽理解モデル)やSheetSage2(楽譜認識モデル)といった関連ツールも同時に公開しており、音楽AIの研究インフラを着々と整備しているコミュニティだ。
オープンウェイトの高性能モデルが存在することで、研究者・開発者がカスタムファインチューニングや独自アプリケーションを構築できる可能性が広がる。Sunoの訴訟問題や学習データの不透明さへの批判を踏まえると、「ライセンスと出自が明確なオープンモデル」への需要はしばらく高まり続けるだろう。
作り手・聴き手への示唆
楽譜という中間表現を挟むことで、プロンプトだけでは難しかった「コード進行の調整」「特定メロディラインの修正」といった操作が現実的になってくる。音楽理論の知識がある人ほど恩恵を受けやすい設計だ。
もちろん、環境構築のハードルはある。ただ、クラウド版の登場やColabノートブックの整備が進めば、より広いユーザーがこのアプローチを試せるようになるはずだ。「作ったが気に入らない」を繰り返すのではなく、「スコアを読んで直す」という新しい音楽制作のフローが、少しずつ現実味を帯びてきた。
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