「録音物はAIに食わせて商業利用された」——AFMがUMG・Warnerの棄却申立に反論
米音楽家組合AFMが、ユニバーサルとワーナーのAIライセンス契約をめぐる訴訟の棄却申立に正式に反論。組合員の演奏は無断でAIシステムに利用された、と主張する。
アメリカの音楽家組合AFM(American Federation of Musicians)が9月4日、ユニバーサルミュージックグループ(UMG)、ワーナー・レコーズ、アトランティック・レコーディング・コープを相手取った訴訟において、レーベル側が求める訴え棄却申立への反論書をニューヨーク連邦裁判所に提出した。
何が起きたか
AFMはこの訴訟を今年6月に提起し、7月24日に訴状を修正。組合と各レーベルの間に結ばれた労働協約「サウンドレコーディング労働協定(SRLA)」の第21条(a)項に基づき、レーベルが組合員の録音物をSunoとUdioにAI学習用としてライセンス供与したにもかかわらず、組合員への支払いや通知を怠ったと主張している。
SRLAのArticle 21(a)は、既存の協定対象外となる「新たな使用」に対して支払いと通知を義務付けた条文だ。
レーベル側はこれを8月に棄却申立で迎え撃った。UMGの主張は「Article 21(a)自体には料率の定めがなく、別の協定が適用されて初めて料率が生じる。AIに関する別協定は存在しないのだから支払い義務もない」というものだ。ワーナーとアトランティックも8月14日に同様の申立を行った。
AFMの反論の核心は「Article 21(a)は複数の解釈が成立し得る条文であり、組合の解釈は合理的だ」という点に置かれている。棄却申立を退けるには、合理的な解釈が存在することを示せれば足りる——というのが組合の論拠だ。
なぜこれが重要か
この裁判のタイミングは象徴的だ。UMGはUdioと2025年10月に和解、ワーナーは同年11月にUdio・Sunoの両社と和解している。一方でAFM組合員は、それらの和解金を一切受け取っていない、とAFMは言う。
レーベル側が「AIとの取引はアーティストのための勝利だ」と公言しながら、実際に演奏した組合員には分配されていない——。AFMはこの矛盾をブリーフに直接記した。
担当判事のエドガルド・ラモス判事自身も、7月の予備的審問でレーベル側に鋭い質問を投げかけている。
「あなた方はAI企業にそれを使わせてライセンスし、おそらくその利用から利益を得ている。ではなぜ、その音楽を作った人に払わないのか?」
判事がこの問いを発したこと自体、AFMにとって有利な文脈と言える。
論点・異なる見方
争点はシンプルではない。UMGの主張には一定の法的根拠がある。「別途協定がなければ料率が生じない」という読み方は契約解釈上あり得る立場であり、労働協約の交渉史はそれを補強している。ワーナーの顧問弁護士は審問で、ビデオゲーム条項や外国ライセンス条項が過去の交渉で追加された経緯を示した——つまり、新たなユースケースは「訴訟ではなく交渉で解決してきた」という文脈だ。
AFMも反論の中でそれを認識しており、サンプリング条項が現行SRLAの中にAIユースの支払い参照基準として使えると論じている。仮に「棄却されないための最低ラインを超えた」と判断されれば、訴訟は本格的な証拠収集フェーズへ進む。
なお、ソニーミュージックはAI企業と和解しておらず、この訴訟の当事者でもない。
今後どう展開しそうか
棄却申立のブリーフィングは本日(9月11日)に完結する。裁判所が申立を棄却すれば、AFMは正式な証拠収集手続き(discovery)に入れる。逆に申立が認められれば、AFMは控訴するか、再度の提訴を模索することになるだろう。
より大きな枠組みで言えば、AFMとレーベル各社は次期SRLAの交渉を続けており、AI条項がその中心テーマだ。この裁判の行方は、交渉テーブルの力学に直接影響する。レーベル側が法廷で勝てば、AIライセンス収益を組合員と分配しないままで済む交渉上の根拠が強まる。
作り手・聴き手への示唆
この訴訟は、AIと音楽産業の関係をめぐる問いの中でも、最も地味で最も根本的なものに触れている——「誰が、何のために、いくらもらえるのか」という問いだ。
大手レーベルとAI企業の間で行われた和解は、メディアでは「業界の前進」として報じられた。しかし、その果実がどこまで届いているかは別の話だ。AFMの訴訟はその問いを法廷の俎上に載せている。
訴訟の結論がどちらに転んでも、AI音楽が本格的にビジネスの構造に組み込まれていく過程で、「誰が決め、誰が受け取るか」の仕組みをめぐる争いは続く。今回のAFMの対抗申告は、その最前線のひとつだ。